ヨモジジ(freaks ver.)

本と雑貨と音楽と、街歩きが好きなオッサン。1981年生まれの珈琲難民が好き放題に語る。レビューのためのブログ。

「租税法入門」著:増井良啓

専門書ではありますが、これ単独できちんと読めます。


いい入門書はその分野の意義と概観をどう押さえるかにかかってます。
その点、序論から紙幅を40pに渡って割いて、
租税法の意義に始まり歴史的過程を見せてくれていて
初心者としてとても助かりました。


どちらかというと法制の策定が視野に入っている分野のようですが
適用される側としてもその視点を共有するのは意味のあることでしょう。


また、各論ではより深く掘り下げつつ、
コラムで実際の事例などを拾っているうえに、
各チャプターに参考文献をつけてくれる親切仕様。

マニアックだから星3つにしようと思ったけど、
減点する内容が一個もないので、星4つに直しときます。
有斐閣だし、指定図書にしてる大学もあるんじゃないかと思うけど、
学生さんは買ったら隅まで読んでおくといいよ。

租税法入門 (法学教室ライブラリィ)

租税法入門 (法学教室ライブラリィ)

累進税率の存在が事前にわかっていれば、高所得者になる可能性のある人は、労働を控えて余暇を増やすかもしれない(代替効果:substitution effect)。逆に、税引後の手取りを増やそうと考えて、もっと働こうとするかもしれない(所得効果:incom effect)。いずれの効果が勝るかは実証の問題である。(p.19)

分からないことは(調べないと)分からないと言うのは好感が持てる。
こういう態度が科学的と呼ばれるべきものだと思う。

「ダチョウは軽車両に該当します」著:似鳥鶏

お仕事ものと推理サスペンスのごく軽いレジャー本ですね。


比較的細かく脚注が入るのはお仕事ものにはありがちで、
かつありがたいものですが、動物以外のネタも多いので
もしかして作者はそこまで動物に入れ込んでないのではないでしょうか。


とはいえ、軽いことが長所となることもある。


ミステリーと裏に書いてあるけど、
謎解きに頭を捻ることもありませんぜ。

ダチョウは軽車両に該当します (文春文庫)

ダチョウは軽車両に該当します (文春文庫)

「先にやらなかったらこっちが何をされていたか分からないでしょう。ああでもしないと、か弱い女一人で四人も相手にできないもの」
横にいる男を計算に入れていない時点でか弱いわけがないのだが、それは言わないことにした。(p.46)

こういう「認識と現実の距離感」は現代的リアリティを持って読める感じ。
キャラは作り過ぎかと思うけども。

「豊乳肥臀」<上巻>著:莫言

ノーベル賞と聞いて身構えて読んでた感はあるけれど、
割とオーソドックスな小説だと思う。


上巻では日中戦争の流れを濃く写しとりながら
7人の姉たちのそれぞれの半生を見せていく。
僕は細雪を思い起こしていた。

あんな絢爛な舞台ではないが、地元の有力な家ではあり、
その社会的な地位の変動が個人に落としていく影とか。
ただしこちらは生臭い。そして、死が近すぎる。


姉の中では鳥の巫女になった話が特に印象的だったかな。
狂人への畏れとそこにある美しさは確かだ。
我々は狂ってないフリをして美しさだけ戴こうとする。


主人公はまだ青年にもなっていないまま上巻を終えてしまった。
いや、上巻の半分くらいは赤ん坊であったような気がする。
誰かが爆死してもお乳が飲めないことに恨み言を言うような
主人公の視点が延々と続いていたのだ。

これは確かに、並々ならぬ筆の体力だと思う。

豊乳肥臀 (上)

豊乳肥臀 (上)

マローヤ牧師は、首をつづけさまに振って、
「いかん、いかん。狗(ゴウ)だの猫(マオ)だのと、神の御心に背いておるのみならず、孔子さまの教えにも背いておる。孔子さまの曰く、<名が正しからざれば、言は順(したが)わず>、とな」
「わたし一つ考えついたんだけど、どうだろうね、上官アーメンというのは?」(p.137)

記号・ジェンダー・女子高生(漫画話。後編)

引き続き二本の漫画の話をする。

好奇心は女子高生を殺す」(以下、「好奇心」)

ササミは心配中毒
(以下、「心配中毒」)


これらが男子高校生になるとどうなるか。
前編では年齢を調整変数に考えて見た。
その時はドラマが成立しなくなったり
読者の受容姿勢の変化が想定された。


ここで性別を変えることで同じことが起きるかと言えばそうではない。
性別の変更は「学生」「勇者」「科学者」などの属性の変更に近い。
要するにドラマは成立するだろうと思う。


ただ、味は違うし、
何より読者マーケットの選定に影響するだろう。


女性が主人公だから男性向けだとか、女性向けだとかではない。
というか、世の中を二種類に分けるだけですむなら
仕事でマーケティングする人は要らないだろう。


BLを女性向けだと言っても
一般的にすべての女性が読んでないことは明らかで
かつ、男性が読まないわけでもない。
しかし、読者が男性、女性である垣根を超えて
「一定の固定のマーケット」が存在していることも確かだ。


セクシャルなものを話題に挙げなくても
SFをベースにするか、剣と魔法を出すか、歴史ものにするか、学園ものにするかで
自ずと読者マーケットが選定される。
その中でギャグをやるか、友情を描くか、またはビルドゥングスロマンを描くか
その時に切り口として年齢が大きく影響する。
しかし、男でも女でもギャグも友情モノもビルドゥングスロマンも描ける。
これはただの背景なのだ。


しかし、男子学生は選ばれなかった。なぜだろう。
(これが本題でした。長い、長い前振り)


「好奇心」のほうでは、セクシャリティ
差し挟まないために女子高生が選ばれたように思う。
ここ数年のジャンプはかなり2次創作の為に作られている感があるが
男子学生というのはその言葉だけで現在は相当セクシャルである。
(個人の感覚です)


テニプリから始まり、黒子のバスケ、ハイキュー、
これが男子学生というもののポテンシャルである。
Q.E.D.)


「心配中毒」ではどうか。
ダベリ漫画というのは一つのギャグマンガの定型として存在する。
日常の雑感を脈絡なしに放り込めるので
切り口で楽しませる芸としてはやりやすい形式だ。


*** 参考 ***

THE3名様wiki
マヤさんの夜ふかし

*********


「心配中毒」はそう言えば女性ばかり出てくる。
メインは女子高生だが、近所のお姉さんや、婦警さんなど。
そう言えば自治会のお爺さんたちは出てたな。


このゲスト登場キャラ自体が概ね出オチ並みの
テンプレ感を持って現れて作品を彩っている。


ということは、男子学生はテンプレ感が足りないのか。
そんな訳はない。そうではなくて、漫画のコンセプトを考えればわかる。


キャッチコピーはこうだ。
「余計なお世話をあえて焼く系JKの、中毒性ありありな日々。」


余計なお世話ということは
普通の人は目にしても話題にせずにスルーするということだ。
もう少し付け加えると
「いじりにくい所もあなたに代わって余計な一言を言っておきます」
という漫画なのだ。


最新話のゲストは
トイカメラが出すヴィンテージ感で遊んで見た」系女子である。
ここから導き出されるのは、男子学生のテンプレは
すでにいじられすぎててネタの鮮度が悪すぎるということだろう。


主人公を女子高生にしたのは
そうした触りにくいところをいじりに行く時に
比較的フラットに入りやすいという辺りではないか。


以上、こうして見てきて思うところは
女子高生という記号の浮世との接点の遠さである。
そりゃぁ商品になってしまう。


ヨーロッパで胡椒が珍重されたのは美味しさ、保存料というだけでなく
ヨーロッパになかったのが一番大きい。
女子高生が胡椒なら、男子学生は何か。
塩じゃね?とりえあずふっときゃいい良いみたいな。


*** 蛇足 ***

ジェンダーという話をするなら、
こうしたホモソーシャルなドラマではなくて
男ー女のペアがあるところでの描き方のほうが大事だ
という話はあると思いますが
それはだいぶ変数が多い上に、興味の無い話題でした。

つまるところ、必ずしもそうしなくてはならないわけでもないだろうに
選ばれた女子高生という記号の特性を考えたかったのです。
副産物で年齢のほうが自分にとって大きなファクターとなることは意外な発見でした。

最後まで読んだ方はお付き合いありがとうございました。

**********

記号・ジェンダー・女子高生(漫画話。前編)

漫画は言うまでもなく記号だ。
いかに写実的なタッチであったとしても、
精密な記号でしかない。


現実の何かを指し示すというのではない。
私たちがイメージしている何かを呼び出すためのボタンである
という意味合いで記号だ。


*** 脱線 ***

東君の「動物化するポストモダン
(この言葉自体コジェーブの引用だが)
というのはその脊髄反射的なシステムを指してもいる。
僕はバタイユの「水の中の水」という言葉が
「動物」にはよりしっくりとくる。

*** 復帰 ***


記号化は漫画に限らずあらゆる分野で起こるが、
誰もが確認できる形で流通するということは
記号化したものが「呼び出されるもの」にもなるわけで
漫画は記号以上の何かである。


それ故に、同じく社会問題として記号を扱う
ジェンダー論にとって漫画は無視できない存在だと思う。
(僕はその研究家でもなんでもないが)


ここに二つの漫画を紹介する。
好奇心は女子高生を殺す」(以下、「好奇心」)

ササミは心配中毒
(以下、「心配中毒」)


二つとも女子高生二人が主人公となっている。
「好奇心」は天然少女としっかり者の女の子の
王道百合にファンタジックな要素を足すことで生臭さを抜いて、
ありえなかった純粋な青春を見せてくれる。


「心配中毒」はBowシリーズを知っている人なら
懐かしい現実の看板などをいじり倒す会話劇で
こちらには百合要素はほとんどない。
最近ツッコミ役もボケ倒して来ている。
ネタの軽い捌き方がいい。


二つとも好きな漫画なのだが、
ここで二つの作品がなぜ女子高生なのかを考えたい。


まず年齢を変えるとどうなるか。
女子小学生であったら、コナンの少年探偵団くらいのイメージだとどうか。


「好奇心」にあっては、おそらく成立するだろうと思う。
ただし、現実との折り合いを付けなければならない、という
ドラマを作る時には小学生は「現実の生活」から遠いのだと気づく。
家を出て、一人で生活する日を考えたり、
その時にいて欲しい友達のことを想うのは、小学生ではない。


「心配中毒」については
ガキのたわ言感が出過ぎて、
ツッコミが上滑りになる危険がある。


逆に年上だとどうか。
女子高生より上の年齢で言えば、女子大生、OL、主婦、
子供が独り立ちした後(40後半以降)、老境
あたりまで記号的に扱える範囲でもだいぶバリエーションがあるけれど、
学生という変数を統制したいので女子大生で考えよう。


「好奇心」に関してはこれも現実との距離感の問題がある。
今度は現実に近すぎる。
また、描こうとしている友情が
一途で純粋すぎるのもそぐわない。


*** 注釈 ***

大学生に友情がないというのではなくて
大学生という記号から僕がそう思ったということです。
記号の全体世界における対応物(シニフィエ)は
個人が確認できる形でないので、ここは危うい推論の積み上げになります。
これはこの稿すべての問題点です。
ただし、結果としてある記号が選ばれているのは事実で
そこから逆算して考えることは
「再生産されるシニフィエ」としての漫画を捉える役に立つはずです。

*** 注釈終了 ***


「心配中毒」が女子大生ならどうか。
これは行けると思うが、現在のテイストでそのまま行ってしまうと
登場人物への苛立ちを高めてしまうかもしれない。
女子高生は女子大生に比べて聞き流してやれる範囲が広がるというか、
有り体に言えば軽んじられる。


ここまで年齢の記号は
「ドラマ内の現実的なものとの向き合い方」
「読者がどのようにセリフを受け止めるべきかの提示」
こうしたものを含んでいると言えます。

ではいよいよ、男性に変更したらどうなるか。
トイレ休憩を挟んで書きます。

「徳川家当主に学ぶほんとうの礼儀作法」著:徳川義親

就活しようと思って買った本。

まー、こういうのは1冊くらい読んでも悪くはないね。

ただ、帯は
「こんな”失礼”をしていませんか?」なんて
脅迫調ですが、徳川さんはもう少し柔軟なエチケット像を提示しており
僕も共感できることが多い。

相手のためを思い
互いに気持ちよく過ごすためにするのがエチケットでいいじゃない。

とはいえ、どういうことが問題になるかは
知らないと気づかないこともあるわけだから
エチケットについて網羅的になっているこの本はよいです。

徳川家当主に学ぶほんとうの礼儀作法

徳川家当主に学ぶほんとうの礼儀作法

主人が不在のとき、名刺の肩を折ってくることがある。やかましくいえば、左上の角は祝賀、告別は右上角、弔問は左下角、忌中には黒枠をするといったふうで、これは中国の古礼を伝えているが、今日ではかならずしもこれに従うことはない。本来は名刺を折ることによって本人が来たことを示したものだが、むしろあいさつのことばを書いてきた方がよい。(p.90)

合理的である。

母の「帰ってすぐで悪いけど」ということばに対して「おかあさんが急いでいるから、すぐ行ってあげよう」と思うのは子どもの親に対する愛情である。

当然のやり取りとしてとらえてないからこそ価値のあるものだ。

後継社長の実務と戦略

要するにこの人自身が二世として苦労しているということではあるか。

実際のところ、直に話を聞いたら面白いだろうし
ちゃんと仕事もしてくれると思うけど、
正味の話、本としての出来はもう少し足りない。

多数の事例があがっているけど
それに対してどう思って、どうアドバイスしたかで終わってしまっている。
アドバイスのあと、会社の中で具体的にどう実践に移したか
そして何よりその結果はどうだったかという点が非常に弱い。

1つ1つの話は面白いものもあるので勿体無いことだ。

巻末にそれらをもう一度
並べ直してるのも減点要素で
却って本文の記述が十分でないことを認めてしまっている。

幾代もの繁栄を築く 後継社長の実務と戦略

幾代もの繁栄を築く 後継社長の実務と戦略