読書
胡椒が人を翻弄してきた歴史を紐解いていく。帝国主義的な脈絡の中で話せば、海洋大国の東方世界への進出と征服ということではあるが そもそも東インド会社などの設立を考えると、単なる国家事業とは趣が違う。 まず第一に利潤を生むからこその進出であり、…
評論家と数学者の対談ではあるが、 どちらも思考の基礎としての哲学の色があるので さほど遠くない2人とも言える。どちらも好き放題にしゃべっているが どちらかというと岡の方が放埒で 小林がそれを受けたり、なだめたりするといった趣。人間の建設とは教育…
久しぶりに小説を読んだ。不幸には色々な形があるというようなことを 確か、トルストイが言ったと思うけれど、これはそれに近い味がある。不幸というよりは貧しさと言った方がこれにはしっくり来るだろう。 絶望のような感情ではないのだ。摩滅していく日々…
管理ゼロはある種の夢の一つでしょうから これはだいぶ夢のあるタイトルですね。上からのマネジメントを極小に抑えるための色々な工夫が語られていますが 一番のキモは管理しなくても良い人材を捕まえてくる、というところでしょう。同じ方向を見ているかど…
ヒンドゥー教はインドの宗教だということは知っていても それ以上のことはあまりよく分からない。この本を読んでみてそれが分かるかというと さらに混迷を深めてしまう。何故なら系統だった教義であるよりも先に民衆の中にあった伝承や習慣が イスラムなど他…
移民の集まるアメリカの街。 いわゆる貧困の問題や、その中でもさらに皺寄せが来てしまう女性の問題、 ということに触れつつも重く地面に縛りつけられるよりは スキップしながら通りを走り抜けるような軽やかさがある。これはこれである種のステレオタイプの…
ショートショート、と言えば星新一をどうしても引き合いに出してしまう。星新一は清潔で、ユニバーサルで、 近代の夢をそのままユーモアに包んだように感じるのだが、 それに比べるととてもこれは臭う。ここには人が確かに生活している世界があって 「エヌ氏…
グローバルアクターとしての宗教が どのような変容をしていくかについての展望と期待が描かれている。宗教は宗教だけで成り立つわけではなく、 社会的な基盤との関わりの中で信仰の表れは変わってくる。近代化の中で宗教は世俗化の傾向を見せているようでは…
アラブ・イスラーム世界の四行詩である。詩に現われる言葉は 抽象度が高く文化的な共有意識を利用して語られることが多い。 そうなると文化的距離が離れていると理解しにくくなるわけだが その距離を埋めるために各章立てに入る前にエッセイのような簡単な紹…
短い本ではありますが、なんというか いきなり核心に到達しようとする筆致で読み出がある。 大意を入門書的な意味で捉えるとかなり裏切られてしまう。もっとも言っている項目を数えればそれほど多くはない。 たとえばA=notA=A という不思議な等式を しかし…
1922年生まれの知識人である。 戦争をしっかりと焼きつけた世代だ。しかし、そのために考えた人ではないと思う。 もっと柔らかく、生き残った人々の、 生き続ける人々と共に考えようとした人だろう。この本には多数の人物評が記されている。 洋の東西を問わ…
同一性について考える手がかりがあると思って、読んでいったが 固有名の指示とは何によってその固有性が担保されているのか、という問いだけではなく 一般的な指示語についても語るし、指示語との必然的なつながりと アプリオリな繋がりなど思った以上に丁寧…
言わずと知れた「こち亀」の作者の本である。長寿連載というだけでも十分に偉大なことだけれど、その間ただの一度も落とさないというのは やはり並大抵のことではない。とはいえ、ビジネス本として見れば取り立てて大きなことはないと思う。 それは要するに…
科学相談の電話は聞いたことがあるけれど、 電話をかけたことはない。聞きたいことはあるような気がするけど 電話をかけてまで知りたいことがあるような気がしなかった。 でも、きっと興味深く聞いてたと思う。こういうところで聞く子どもたちは大抵身近な大…
ファウストはゲーテが最初に考えた話ではないらしいと ベンヤミンの本で知ってがぜん興味が出てきたのであった。元にあった話を肉付けすることで名声を得るのは 本人の手柄がどこにあるか分からないと難しいだろうと思えるからだ。果たして分厚い二部のうち…
インドでの抒情的なエッセイのようなタイトルであるが 非常に企みの上手い作家らしく、あれよあれよという間に 抜き差しならない場所に連れ込まれてしまう。それにしても 「抜粋集(アンソロジー)には御用心」とか言われるし、 そもそも訳者の須賀敦子が解…
タイトルになっている対比は 学術的な対象としてのカミと現に信じられている神 または、体系立てられる前のカミと教理とともにある神 2つの対比がイメージされているように思う。帯にも「原初のカミをたずね、カミと出逢うために!」とある。 この本に書かれ…
中身のない鎧が一人で勝手に動いてたらホラーなんだろうけど それがちょっと間抜けなくらい生真面目で、 手のかかる道連れに頭を悩ますとか、 カルヴィーノらしいユーモアのある楽しい小説でした。とはいえ話の全体の作りはなかなか込み入っていて ユーモア…
実務者向けのと言うことで、中級者レベルの本ではあると思いますが 必要以上に難しくはしてるわけではないので、ある程度基礎的な知識があれば読めるかなと思います。そして毎月の月次決算からわかることと、 キーになる指標の解説はしっかりしていると思い…
人と猿の違いはどのあたりにあるのかということは 「人間の条件」についての思索を行うことに近い。1991年に出版された本なので、 「現在」とは言っても差し引かなくてはいけない部分が多いが 当時の先端の研究員たちに深く広く話を聞いていく。 教授レベル…
人間は動物や植物を自分たちの都合の良いように変えてきた。 今ではどれも当たり前のように見える動物たちの生態そのものが 自然なものではなく、人が関わってきた中で現れたものなのだと気付かされる。もちろんこの本はそこに善悪を見ているわけではない。 …
ツールという言い方をせずに武器というのは まったくもって穏当ではない。 けれども、そうしたものを探している人に配りたいからこそこの本のタイトルであろう。しかし、交渉は明らかに戦いではない。 戦いは敵に敗北を突きつけることだが、 交渉はそれ以外…
アイデンティティという言葉が市民権を得たのはさほど古いものではないでしょう。 一方で、すでに古くなっているような気もします。今ならダイバーシティと呼ぶような気がします。 私のアイデンティティの問題ではないという立ち位置を取ることで 問題の先鋭…
イスラエルはパレスチナ問題とあわせて語られる事が多いと思うが 本書は新書というスペースの中で、イスラエルという国そのものを なるべく大枠から伝えようとしてくれている。そもそもの成立の仕方自体が 特殊な国だという気持ちで見ていると 特殊な場所の…
書名は聞いたことがあってもよく分からず読んでみた。ある事件のノンフィクションということだが、 文体はとても小説的でとてもよく練り上げられている。具体的な叙述が多いのはそれだけ具体的な内容にあたっているからだが、 主観的であるような言葉が露わ…
PDCAをきっちりやるには継続性とテンポが両立しないといけない。 継続できなければ、フィードバックのないやりっ放しになるし、 テンポが遅すぎれば、チェック機能があっても手遅れ状態からしかできない。本書はその2つの点をきっちり抑えて どのように整備…
ラジオ放送用の原稿として書かれた本書の断章たちは 普段の彼の占星術士のような予感に満ちた文章とは趣が違うけれども 優雅にエピソードを渡っていく手つきは、どれも惚れ惚れとする。ドイツ、というよりはベルリンについて語られるその空気は 日本ではなく…
ワールド・カフェというのは 多人数型のワークショップに近いミーティング形式のことです。ミーティングの参加人数が多い場合に 意見が偏ってしまったり、 参加者のコミットメントが下がることに 課題感を感じることがあると思います。ワールド・カフェは テ…
数学者の書く数学の本は読めないのだから こういった本を読むことになる。だいぶ戦前の道徳的すぎるところが 鼻についてしまうけれど、 真理に向かおうとする時の進み方は特徴的で面白い。コツコツした積み上げよりも ハーモニーに近い捉え方で証明を得よう…
ちょっとタイトルとの齟齬がよろしくない。文明論についての話ではなくて、 未来予測の意義と方法論を説くものだと読んだ。そういうものとして読めば別に良いのだけれど 文明についての、ここの評価はないし、 未来予測を使って文明を考えるというようなこと…