ヨモジジ(freaks ver.)

本と雑貨と音楽と、街歩きが好きなオッサン。1981年生まれの珈琲難民が好き放題に語る。レビューのためのブログ。

「勝ち切る頭脳」著:井山裕太

井山は囲碁で史上初7冠になった人だ。
今はAIの絡みもあってこうした棋士の話は非常に興味深い。

話の流れは自分の半生を踏まえて
勝負の心得や判断など、そしてAIや世界の囲碁界との戦いまで幅が広い。
率直に言うとやや散漫な印象はある。

ただ、1989年生まれの若者なのだと思うと
この年でよく研ぎ澄ましてこれたという感慨はある。
(原稿の初出は2017年)

将棋でもそうだと思うが若いうちから
シビアな競争をする中で、いかにして自分を信じられるかというのが
間違いなくひとつの焦点になっているのだろう。
信じたからといって成功するわけでもないだろうが、
自分を信じずに勝負により多く勝つということはできないはずだ。

勝ちきる頭脳 (幻冬舎文庫)

勝ちきる頭脳 (幻冬舎文庫)

こちらの形勢が良くなり相手が勝負手を打ってくると、つい「安全に」という気持ちが浮かんでいることも多々ありました。
そうした自分の感情に気づき意識的に軌道修正を施します。「いや、違う。守りに入ってはいけない。自分が最善手と信じる手を打つのだ」と気持ちを入れ替える葛藤が対局中に続きました。(p.40)

勝負事は相手を上回る必要があるので、ここでの気持ちの入れ替えは相手の予想を超える可能性を探すことに貢献している。しかし、自分が安全志向になっていることに気づくのは、大胆さよりも冷静さが必要だ。

ミスをしたことはわかっていても、なんとかその手に意味を持たせたい、完全に見捨てたくないという心理で「顔を立てたい」と思ってしまうのです。
しかしこれは、傷口をさらに広げる結果となる可能性が大と言わざるをえません。(p.122)

ここにもその冷静さは発揮される。
盤面の形勢を判断するより先に、己の心の動きをよく見ることが根底にあるようだ。