ヨモジジ(freaks ver.)

本と雑貨と音楽と、街歩きが好きなオッサン。1981年生まれの珈琲難民が好き放題に語る。レビューのためのブログ。

「現代社会はどこに向かうか」著:見田宗介

見田宗介社会学専攻の一部のタイプに人気がある。
宮台真司よりは文化人類学的で、
中沢新一より計量データをきちんと扱う。

まぁ、僕の好きな先生です。
その新刊なんですが、これは少し物足りなさを感じる。

内容としてはサブタイトル(省略してしまってますが)の
「高原の見晴らしを切り開くこと」のために本書は書かれています。
高原とは爆発的増加を経て増加の踊り場に来た我々人類の
グラフに現れた台地のことです。

意識調査の経年比較から、この踊り場において
1、家族システムの解体 2、保守化 3、魔術的なものの復活
を確認したうえで、合理化圧力の弱体化を
引き出すあたりの手つきはさすがである。

ただ、結論的なものに行くにあたって
口当たりのいいものにまとめてしまっているような感覚を受ける。
互いに求められること、生活そのものが喜びであるようなこと、
それ自体が求められるのはなんの違和感もないが、それならずっとそうだったはずです。
ここに至って導かれるべきは経済が
それらをビルトインした時の姿の構想ではないかと思う。

まぁ、でもファンとしては高齢なので新刊もないかと思ってたところに
(すでに全集の刊行も始まってる)今、の地点から書いてもらえたのは嬉しいんだよね。

西ヨーロッパ、北ヨーロッパを中心とする高度産業社会において、経済成長を完了した「高原期」に入った最初の三〇年位の間に、青年たちの幸福感は明確にかつ大幅に増大している。(p.57)

NHK放送文化研究所の「日本人の意識」調査を見たあとで
「世界価値観調査」から多国籍間の比較を行う。
社会問題などは変わらず取りざたされていても総体としてみれば
幸福感の上昇は認めるべき事実と言って差し支えない。

予言書からキリスト教に至る宗教は、未来へ未来へと向かう精神、現在生きていることの「意味」を、未来にある「目的」の内に求めるという精神において、この近代に向かう局面を主導してきた。(p.96)

苦しい時はこの啓示が救いになったが
幸福になってしまえばどうなのか、というのが本稿。
また、これまでの基幹的な考えとして宗教を引いているが
同時に宗教が救いにならないという視点でもある。