「ギケイキ 千年の流転」著:町田康
ギケイキとは義経記、源義経のお話ですね。
今回読んだのは最初の巻でまだ続きがあるようでしたが
会話のテンポもよく、楽しめました。
町田康らしいめちゃくちゃさが、
当時の野武士たちのイメージとこれほど親和性が高いとは。
というか、町田康は野武士なのかもしれない。
橋本治が源氏物語を「桃尻語訳」した試みを彷彿とさせるが、
これは翻訳したというものではない。
そうではなくて、ただひたすら、
今、書き起こした物語としてここに成立させている。
それは物語を読み易く、わかりやすくするなどということを越えている。
読者を連れ回そうという企みだし、ジェットコースターの安全バーだ。
(あれをかけられると逃げられない、という緊張がかえって出てくるのは僕だけ?)
日本全国津々浦々をめぐる義経の行動力に、
それを現在の行政単位で教えてくれる町田の目論見に、
場所と時間をぶんぶん振り回されましょう。
- 作者: 町田康
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2018/06/06
- メディア: 文庫
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「恐ろしい人ですよ、安倍権守ちいまして、はっきり言ってもう無茶苦茶でしたからね。肩から泥が湧き出たり、目から犬、出したりね。頭の中に餅や小判を大量に詰め込んでいましたよ。誰も逆らえない」
「意味わかんないですよ」(p.33)
多分どこかに書いてあったエピソードなんだろうけど、
面白がって紹介するくせに、一言で切り捨てる。町田康っぽい。
四分の一早業くらいにすれば尻が割れて死んだ奴のうち何人かは助かったのかもしれない。けれども的を殲滅するための戦闘なのでそれは仕方がなかった。
私はステルス戦闘機のような大将軍だった。頼朝さんは無人機のような大将軍だったのだろうか。(p.382)
無茶苦茶なスピードについてこれないという描写そのものは
現実離れしているものの、この思考回路自体はとてもリアリスティックであって
町田はこういうところがしっかりしてると思う。