「密林の語り部」著:バルガス=リョサ 訳:西村英一郎
ペルーのある部族にまつわる伝承を
現代の都市部の人間が語る二重の語りの構造が特徴的な物語だ。
考えようによっては「語り部」の伝承であるから
三重になっているとも言えるかもしれない。
南米の物語と言えばマジックリアリズムのようなものを期待するが、
それは「」に閉じこめられて、むしろ採集される存在として冷静に見つめられる。
言葉を変え、コンテクストを変え、物語は語り直されていく。
非常に重層的な物語だが、筆致は安定していて
ただ肥沃であるというよりも、レポートであるような姿勢を崩さない。
正直、一回の通読では読みきれた感覚はないのだけれど、
とてもよい真摯なものを読んだという気分はある。
語り尽くすことが、語ることの目的のすべてでもないのと同様に
読み尽くすことが、読むことのすべてではない。
- 作者: バルガス=リョサ,西村英一郎
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2011/10/15
- メディア: 文庫
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《私たちと違って、語り部のいない人々の生活はどんなにみすぼらしいものだろう》と、彼は考えに耽った。《君が話してくれるから、まるで、同じことが何度でも起こるようだよ》(p.85-86)
一度起こったことは、また起こるのだろうか?薬草に詳しいタスリンチはうなずいた。《それはどれかの世界にある。そして、魂のように戻ってくる。たぶん、二度、三度と同じことが繰り返されるのは、私たちに責任があるんだ》と、タスリンチは言った。だから、分別を忘れず、記憶をまどろませてはならない。(p.193)
そのときまで、あなたたちすべてが知っていることを理解できなかった。違う形をして生まれてきた子供を、動物の親は殺すということを。(p.320)
語り部の末裔はここでいう完全なものではなかった。
街から姿を消し、しかし、語り続けるものとして語り継がれる。