ヨモジジ(freaks ver.)

本と雑貨と音楽と、街歩きが好きなオッサン。1981年生まれの珈琲難民が好き放題に語る。レビューのためのブログ。

『交渉術の基本』著:グロービズ

交渉というとずる賢く立ち回るような印象もあるが
本書は交渉をもっとよいものとしてとらえている。

そもそも交渉が発生するのは情報が非対称である時でしかない。
つまり、互いに相手がどういう状況で何を求めているかの情報が完全に共有されている時、
それは交渉ではなくて純粋な意思決定の場所になるだろう。

立場の強弱に関係なく、交渉のテーブルにつくという時には
情報の不均衡があるという前提が共有されている。
もちろん、それはカサにかかっている場合もあるだろうが、
立場が弱くとも相手の前提条件を転換させるような提案があれば
単純に押し負けるわけではない。

また、自らの前提条件も相手の情報を受けながら柔軟に対応することで
当初想定されていた結末よりも、互いによりよい価値に近づくことがあることを本書は提示している。

勝利条件の変更を考慮せずに勝ちに行こうとする交渉は
騙し合いであり、それも交渉のひとつではあるが、
本書が「基本」として据える「価値創造型交渉」こそは
なにかと板挟みになりやすいビジネス上の交渉人たちに誇りをもたらすものだろう。

 交渉において、もしこの交渉が決裂したらどうなるか、自分はどう行動するか、相手はどう行動するかを、あらかじめ見極めておくことは極めて重要です。
 これは交渉に関する最も重要な古典的概念の一つで、BATNA(Best Alternative To Negotiated Agreementの略)と呼ばれています。直訳すれば「交渉で合意することに次ぐ最前の代替案」ということで、「交渉で合意が成立しない場合の最善の案」という意味です。(p.27)

基本にして最重要ポイント。
これは相手のBATNAを知るだけでなく、自分のものもきちんと把握できているかが問われる。

 多様な利害関係者の存在と彼らの間の力関係を整理する手法として、マッピングをしてみることをおすすめします。
 マッピングする際には「考えられる登場人物は全部書く」、つまり交渉を取り巻くさまざまな利害関係者たちを可能な限り書き込むようにしましょう。書き込むにあたっては、簡潔にそれぞれの立場を書き添えてもよいし、固有名詞だけでもかまいません。大切なのは「視野に入っている」ことです。(p.142)

 テーブルの前だけでは打開策のない場合に、見えていない利害関係者を想定すること。
ここで立場を書かなくてもいいというのは、先入観をもってあたるべきではないからだろう。
視野の広さと、柔軟さが必要だ。