ヨモジジ(freaks ver.)

本と雑貨と音楽と、街歩きが好きなオッサン。1981年生まれの珈琲難民が好き放題に語る。レビューのためのブログ。

「ヴォイニッチホテル」著:道満晴明

短編を主戦場とする著者の珍しい3巻にわたる長編。

設定の盛り込み密度は常にマシマシ。
包むつもりもない風呂敷で
人が楽しくホラ話をする感覚だと、こんなものかもしれない。
(チャック=ノリスの挿話なんて特に必要だったろうか?)

孤島にあるホテルを舞台にした
傷のある人々の愛と執着の群像ラブコメと、言っていいかな。
別にドロドロした駆け引きなんてのはほぼないので、
ブコメ部分はむしろかなり微笑ましい。

ただ、エログロ的なネタは無神経に放り込まれる。
ヒロインのホテルメイドさんは右目が義眼で、目玉が落ちるシーンがあったり、
ホテルの地下には魔女のゾンビがいて、
少年探偵団のハカセ君とお付き合いをするんだけど、簡単に四肢がもげてしまうとか。

ただし、これらはショッキングなシーンとしてよりは
当然の帰結くらいのテンションで描かれる。

この人の作風はその設定の過剰さよりも
欠損に対する躊躇いのなさ、と
不具に対する手つきの自然さにこそ価値があると思う。

どの傷も、その人がどのように生きてきたかを伝えてくれる。
誰かを愛するなら、傷ごと愛したい。
そういう欲望についてのお話だと思う。

「あなたは幸せになりたいんじゃなくて 他人を自分より不幸にしたいだけなのよ」
「それもそうねっ」「どうかしてたわ私」
「よかった やっぱりあなたイカれてるわ」「だから私あなたが好き」(2巻p.85)

とある悪魔との取引。
なんつーかこの辺の「間違った肯定」みたいなものは大事に描かれていると思う。

「タイゾウさん 助けに来ましたよ」
「え」
「エレナ!? 一体どこから」
「今はそんな事よりも」
「勝負に勝つことをかんがえましょ ほらそこ出せますよ」
「あ‥‥ あれ ホントだ…?」
「ねっがんばりましょう」
「そうだね」「何か勝てそうな気がしてきた」(3巻p.15)

エレンかわいいよ、エレン。
というか、ピンチをどこまでも救ってくれるエレンは正直な話、
男にとって都合が良すぎるので、
フェミニズム的にはいつまで乳離れしないんだって怒られるやつだけどね。