ヨモジジ(freaks ver.)

本と雑貨と音楽と、街歩きが好きなオッサン。1981年生まれの珈琲難民が好き放題に語る。レビューのためのブログ。

『冷血』著:トルーマン・カポーティ 訳:佐々田雅子

書名は聞いたことがあってもよく分からず読んでみた。

ある事件のノンフィクションということだが、
文体はとても小説的でとてもよく練り上げられている。

具体的な叙述が多いのはそれだけ具体的な内容にあたっているからだが、
主観的であるような言葉が露わになるのはそれだけ
直接の聞き取りを行ったからだろう。

事件のノンフィクションだと中立性や真実性を際立たせるために
警察の取調べ記録や法廷での裁判記録などを中央に据えることもあろうが
この本の場合はそういったものが存在する前に作られたような感じがする。
無害化される前のなるべく生に近い物語を作りたかったに違いない。

この物語には「何故」という視点はない。
しかし、それだけにただ悲しいだけの事件にも
気を惹きつけられるような挿話が多くある。

ただただ人生は、
そうでなければならなかったということはないだろうに
取り返しのつかない事が多すぎる。

冷血 (新潮文庫)

冷血 (新潮文庫)

ラップ家はローマンカトリックだったが、クラッター家はメソジストだった。娘と少年がいつか結婚するという夢を抱いていたとしても、その事実だけで夢を断ち切るのに十分な理由になった。(p.21-22)

アメリカはカンザス州、1959年。時代の風俗的なものもしっかりと描かれている。
農業がメインの穏やかな街での事件だった。

彼女に対する態度を一貫させ、貴兄が弱い人間であるという彼女の印象に何かを付加するような真似はしないこと。それは、彼女の善意が必要だからではなく、このような書簡が今後もくると予想されるからであり、そして、それらの書簡は貴兄がすでに有している危険な反社会的本能を増幅させるばかりだからである。(p.267-268)

これは事件を起こした犯人の姉からの手紙を紹介した上で、
それについての刑務所仲間からの批評をそのまま掲載している。
単にシニカルというよりも根が深くねじれたものを感じる。犯人に対してか、または著者に対してか。