ヨモジジ(freaks ver.)

本と雑貨と音楽と、街歩きが好きなオッサン。1981年生まれの珈琲難民が好き放題に語る。レビューのためのブログ。

『イスラエル』著:臼杵 陽

イスラエルパレスチナ問題とあわせて語られる事が多いと思うが
本書は新書というスペースの中で、イスラエルという国そのものを
なるべく大枠から伝えようとしてくれている。

そもそもの成立の仕方自体が
特殊な国だという気持ちで見ていると
特殊な場所の特殊な出来事のように見える。

いや、そうなのかもしれないけれど
どの点がどの程度特殊なのかということを考えにくくなってしまう。
しかし、人がおり、社会がある。そこは変わらない。

イスラエルは国民の統合をユダヤ教に委ねているわけではない。
ユダヤ教によって統合されている、
という人々もいればそうではないという人もいるし
ユダヤ教が根底であるが、アラブ人を排除する必要はないとする立場もある。

同じユダヤ教の中にもヨーロッパからの移民(アシュケナージ)と
アラブからの移民(ミズラヒーム)での立場の違い。
移民する時期の違いもあるが、
その多くは外面的な特徴の違いがあるだろう。

イスラエルで起こっている出来事は決してイスラエルだけの問題ではない。
いずれ同じ問題を解かなくてはいけない時が来る。
政治的、経済的な繁栄はそうした問題を解く時に猶予を与えてくれるというだけだ。

イスラエル (岩波新書)

イスラエル (岩波新書)

  • 作者:臼杵 陽
  • 発売日: 2009/04/21
  • メディア: 新書

社会主義シオニストマサダ砦の玉砕における集団自決を、降伏せずに最後まで戦った国民的英雄行為の事例として称賛した。イスラエル版の「伝統の創出」である。(中略)
マサダの防衛戦でのユダヤ人の勇敢さが、ヨーロッパのユダヤ人がホロコーストに直面して戦わずして死を選んだという「不名誉」な受動性と対置されていることは明らかであった。(p.72)

これは全く思いもしなかった視点であるが、
勇壮さは統合運動と相性が良いのであろう。シオニズムはそのような積極的な側面があると。

和平の挫折は結局のところ、和平の果実の分配に与れずに不満を蓄積した貧困な社会層が、和平に反対する右翼勢力を選挙で支持したためであり、労働党貧困層の不満に目を向けることができなかったからであった。「和平の配当」に与れなかった社会集団の代表が、貧しいミズラヒームであった。(p.191)

弱いものが優先されることは合理的な配慮をすれば当然ありえない。
大多数を占めるものの利便性を図ることは、もっとも効率が良いはずだから。
しかし、それでは社会は自らを危うくすることでしか変われない。