ヨモジジ(freaks ver.)

本と雑貨と音楽と、街歩きが好きなオッサン。1981年生まれの珈琲難民が好き放題に語る。レビューのためのブログ。

『ファウスト 悲劇第一部』著:ゲーテ 訳:手塚富雄

ファウストゲーテが最初に考えた話ではないらしいと
ベンヤミンの本で知ってがぜん興味が出てきたのであった。

元にあった話を肉付けすることで名声を得るのは
本人の手柄がどこにあるか分からないと難しいだろうと思えるからだ。

果たして分厚い二部のうちの一部はするすると
テンポよく読めて、エンターテイメントとしての質があった。

それにしても筆致が妙に若く、ゲーテ自身の言葉が出るような感じで
少し前の漫画作家のような親しみやすさがある。
(どうやら第二部は違う感じになるようだが)

悪魔に魂を売った男の物語ではあるが、
その悪魔の業はあまり描かれず、
欲望を刺激する言葉の連なりとして悪魔は現れている。
そのことがかえって心理劇としての軸を強くして第二部につなげていくのだろうか。

解説によるとこの作品は非常に長いスパンで描かれたもので
第一部と第二部の間にも20年ほどの中断があったとか。
執筆時期による変化と、それでも手放せなかったモチーフを楽しみたい。

ファウスト 悲劇第一部 (中公文庫)

ファウスト 悲劇第一部 (中公文庫)

われわれの陥っているこの間違いだらけの境涯から、
いつかは脱け出せると思い込んでいられるものは、しあわせだ。
われわれは、必要なことはいっこう知らず、
知っていることは何の役にも立てることができないのだ。(p.91)

こちらはファウストの言葉。
箴言のようなものが、
特に「この忌々しい現実」への吐き捨てるような感じは
頭の回転のいい若者のように聞こえる。

まるでつじつまが合わないことは、
智者にも愚者にも神秘らしく聞こえますからね。
(中略)
だが人間というものはたいてい、言葉を聞いただけで、
何かそれにありがたい内容があると思いたがるものですからね。(p.213)

これなんかもなかなか強烈。悪魔のメフィストの言葉。
フェイクニュースのことを言ってるようでもある。

わたしはあなたのものでございます、神さま。お救いくださいまし。

罪人として囚われたファウストの思い人は
最後、逃しに来たファウストを拒絶する。
メロドラマのようであり、宗教の問題でもあるようだが、
宗教とメロドラマは同じものなのかもしれない。