ヨモジジ(freaks ver.)

本と雑貨と音楽と、街歩きが好きなオッサン。1981年生まれの珈琲難民が好き放題に語る。レビューのためのブログ。

読書

『突然ノックの音が』著:エトガル・ケレット 訳:母袋夏生

ショートショート、と言えば星新一をどうしても引き合いに出してしまう。星新一は清潔で、ユニバーサルで、 近代の夢をそのままユーモアに包んだように感じるのだが、 それに比べるととてもこれは臭う。ここには人が確かに生活している世界があって 「エヌ氏…

『<私>だけの神』著:ウルリッヒ・ベック 訳:鈴木直

グローバルアクターとしての宗教が どのような変容をしていくかについての展望と期待が描かれている。宗教は宗教だけで成り立つわけではなく、 社会的な基盤との関わりの中で信仰の表れは変わってくる。近代化の中で宗教は世俗化の傾向を見せているようでは…

『ルバーイヤート』著:オマル・ハイヤーム 訳:岡田恵美子

アラブ・イスラーム世界の四行詩である。詩に現われる言葉は 抽象度が高く文化的な共有意識を利用して語られることが多い。 そうなると文化的距離が離れていると理解しにくくなるわけだが その距離を埋めるために各章立てに入る前にエッセイのような簡単な紹…

『仏教の大意』著:鈴木大拙

短い本ではありますが、なんというか いきなり核心に到達しようとする筆致で読み出がある。 大意を入門書的な意味で捉えるとかなり裏切られてしまう。もっとも言っている項目を数えればそれほど多くはない。 たとえばA=notA=A という不思議な等式を しかし…

『思想をつむぐ人たち』著:鶴見俊輔 編:黒川創

1922年生まれの知識人である。 戦争をしっかりと焼きつけた世代だ。しかし、そのために考えた人ではないと思う。 もっと柔らかく、生き残った人々の、 生き続ける人々と共に考えようとした人だろう。この本には多数の人物評が記されている。 洋の東西を問わ…

『名指しと必然性』著:ソールA.クリプキ 訳:八木沢敬、野家啓一

同一性について考える手がかりがあると思って、読んでいったが 固有名の指示とは何によってその固有性が担保されているのか、という問いだけではなく 一般的な指示語についても語るし、指示語との必然的なつながりと アプリオリな繋がりなど思った以上に丁寧…

『秋本治の仕事術』著:秋元秋本治

言わずと知れた「こち亀」の作者の本である。長寿連載というだけでも十分に偉大なことだけれど、その間ただの一度も落とさないというのは やはり並大抵のことではない。とはいえ、ビジネス本として見れば取り立てて大きなことはないと思う。 それは要するに…

『大人も驚く「夏休み子ども科学相談」』編著:NHKラジオセンター「夏休み子ども科学電話相談」

科学相談の電話は聞いたことがあるけれど、 電話をかけたことはない。聞きたいことはあるような気がするけど 電話をかけてまで知りたいことがあるような気がしなかった。 でも、きっと興味深く聞いてたと思う。こういうところで聞く子どもたちは大抵身近な大…

『ファウスト 悲劇第一部』著:ゲーテ 訳:手塚富雄

ファウストはゲーテが最初に考えた話ではないらしいと ベンヤミンの本で知ってがぜん興味が出てきたのであった。元にあった話を肉付けすることで名声を得るのは 本人の手柄がどこにあるか分からないと難しいだろうと思えるからだ。果たして分厚い二部のうち…

『インド夜想曲』著:アントニオ・タブッキ 訳:須賀敦子

インドでの抒情的なエッセイのようなタイトルであるが 非常に企みの上手い作家らしく、あれよあれよという間に 抜き差しならない場所に連れ込まれてしまう。それにしても 「抜粋集(アンソロジー)には御用心」とか言われるし、 そもそも訳者の須賀敦子が解…

『カミと神』著:岩田慶治

タイトルになっている対比は 学術的な対象としてのカミと現に信じられている神 または、体系立てられる前のカミと教理とともにある神 2つの対比がイメージされているように思う。帯にも「原初のカミをたずね、カミと出逢うために!」とある。 この本に書かれ…

『不在の騎士』著:イタロ・カルヴィーノ 訳:米川良夫

中身のない鎧が一人で勝手に動いてたらホラーなんだろうけど それがちょっと間抜けなくらい生真面目で、 手のかかる道連れに頭を悩ますとか、 カルヴィーノらしいユーモアのある楽しい小説でした。とはいえ話の全体の作りはなかなか込み入っていて ユーモア…

『月次決算書の見方・説明の仕方』著:和田正次

実務者向けのと言うことで、中級者レベルの本ではあると思いますが 必要以上に難しくはしてるわけではないので、ある程度基礎的な知識があれば読めるかなと思います。そして毎月の月次決算からわかることと、 キーになる指標の解説はしっかりしていると思い…

『サル学の現在』著:立花隆

人と猿の違いはどのあたりにあるのかということは 「人間の条件」についての思索を行うことに近い。1991年に出版された本なので、 「現在」とは言っても差し引かなくてはいけない部分が多いが 当時の先端の研究員たちに深く広く話を聞いていく。 教授レベル…

『家畜化という進化』著:リチャード・C・フランシス 訳:西尾香苗

人間は動物や植物を自分たちの都合の良いように変えてきた。 今ではどれも当たり前のように見える動物たちの生態そのものが 自然なものではなく、人が関わってきた中で現れたものなのだと気付かされる。もちろんこの本はそこに善悪を見ているわけではない。 …

『武器としての交渉思考』著:瀧本哲史

ツールという言い方をせずに武器というのは まったくもって穏当ではない。 けれども、そうしたものを探している人に配りたいからこそこの本のタイトルであろう。しかし、交渉は明らかに戦いではない。 戦いは敵に敗北を突きつけることだが、 交渉はそれ以外…

『アイデンティティが人を殺す』著:アミン・マアルーフ 訳:小野正嗣

アイデンティティという言葉が市民権を得たのはさほど古いものではないでしょう。 一方で、すでに古くなっているような気もします。今ならダイバーシティと呼ぶような気がします。 私のアイデンティティの問題ではないという立ち位置を取ることで 問題の先鋭…

『イスラエル』著:臼杵 陽

イスラエルはパレスチナ問題とあわせて語られる事が多いと思うが 本書は新書というスペースの中で、イスラエルという国そのものを なるべく大枠から伝えようとしてくれている。そもそもの成立の仕方自体が 特殊な国だという気持ちで見ていると 特殊な場所の…

『冷血』著:トルーマン・カポーティ 訳:佐々田雅子

書名は聞いたことがあってもよく分からず読んでみた。ある事件のノンフィクションということだが、 文体はとても小説的でとてもよく練り上げられている。具体的な叙述が多いのはそれだけ具体的な内容にあたっているからだが、 主観的であるような言葉が露わ…

『鬼速PDCA』著:冨田和成

PDCAをきっちりやるには継続性とテンポが両立しないといけない。 継続できなければ、フィードバックのないやりっ放しになるし、 テンポが遅すぎれば、チェック機能があっても手遅れ状態からしかできない。本書はその2つの点をきっちり抑えて どのように整備…

『子どものための文化史』著:W.ベンヤミン 訳:小野寺昭次郎、野村修

ラジオ放送用の原稿として書かれた本書の断章たちは 普段の彼の占星術士のような予感に満ちた文章とは趣が違うけれども 優雅にエピソードを渡っていく手つきは、どれも惚れ惚れとする。ドイツ、というよりはベルリンについて語られるその空気は 日本ではなく…

『ワールド・カフェをやろう!』著:香取一昭、大川恒

ワールド・カフェというのは 多人数型のワークショップに近いミーティング形式のことです。ミーティングの参加人数が多い場合に 意見が偏ってしまったり、 参加者のコミットメントが下がることに 課題感を感じることがあると思います。ワールド・カフェは テ…

『春宵十話』著:岡潔

数学者の書く数学の本は読めないのだから こういった本を読むことになる。だいぶ戦前の道徳的すぎるところが 鼻についてしまうけれど、 真理に向かおうとする時の進み方は特徴的で面白い。コツコツした積み上げよりも ハーモニーに近い捉え方で証明を得よう…

『アタリ文明論講義』著:ジャック・アタリ 訳:林昌宏

ちょっとタイトルとの齟齬がよろしくない。文明論についての話ではなくて、 未来予測の意義と方法論を説くものだと読んだ。そういうものとして読めば別に良いのだけれど 文明についての、ここの評価はないし、 未来予測を使って文明を考えるというようなこと…

『1兆ドルコーチ』著:エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アランイーグル 訳:櫻井祐子

ビジネス書と評伝のあいのこのような本だ。しかし、この書き方になったのは このビルという「コーチ」が行動そのものよりも 人格に特徴があるということを意識してのことかもしれない。それは余計に原理原則というような 無機質なものに抽出することもできた…

『モードの迷宮』著:鷲田清一

これはファッション誌「マリ・クレール」に掲載されたコラムを集めた小論集だが、 そのスタイルは襞の入り組んだ陰影に着目する彼にはちょうど良いかもしれない。境界は動きとともにある。 完全に固定化された境界はただの図像であり、写真だ。 哲学者の鷲田…

『技術の街道をゆく』著:畑村洋太郎

書名のとおり、技術の現場を巡りながら 技術がいかにして受け継がれ、かつ変容してきたかということを見せてくれるエッセイだ。ただ、正直に言うと話のネタはそれぞれ面白いのだが 本の全体の方向性はあまりうまく作れなかったのではないだろうか。 おそらく…

『ケンブリッジ・サーカス』著:柴田元幸

言わずと知れた英米文学翻訳者の柴田さんである。 旅のエッセイなどと帯に書いてあるけれど、しかし旅にしては未知のものが少なすぎる。 これは彼の仕事場の通勤物語だろう。とはいえ、人の仕事場はいつも企業秘密とやらで なかなか見えるものではないから、…

「ねじの回転」著:ヘンリー・ジェイムス 訳:蕗沢忠枝

ちょっとしたホラー小説というところなんだけれど、 まったくうまく噛み合わなかった。その「恐ろしいもの」を直接に描かないことで恐怖を与えるという書き振りなのはわかる。 しかし、書かれていないものの恐怖はリアクションだけで伝わるかというとそうで…

『断片的なものの社会学』著:岸政彦

単純に美しいエッセイ集として読んでも差し支えない。 ここには破調があるけれど、それらは選ばれており、 選ぶことは美に接近することだ。写真は撮影技術以上に編集力がものをいうと僕は思っている。 どのように並べるか、引き延ばすのか、切り取るのか。 …