読書
ビジネス書と評伝のあいのこのような本だ。しかし、この書き方になったのは このビルという「コーチ」が行動そのものよりも 人格に特徴があるということを意識してのことかもしれない。それは余計に原理原則というような 無機質なものに抽出することもできた…
これはファッション誌「マリ・クレール」に掲載されたコラムを集めた小論集だが、 そのスタイルは襞の入り組んだ陰影に着目する彼にはちょうど良いかもしれない。境界は動きとともにある。 完全に固定化された境界はただの図像であり、写真だ。 哲学者の鷲田…
書名のとおり、技術の現場を巡りながら 技術がいかにして受け継がれ、かつ変容してきたかということを見せてくれるエッセイだ。ただ、正直に言うと話のネタはそれぞれ面白いのだが 本の全体の方向性はあまりうまく作れなかったのではないだろうか。 おそらく…
言わずと知れた英米文学翻訳者の柴田さんである。 旅のエッセイなどと帯に書いてあるけれど、しかし旅にしては未知のものが少なすぎる。 これは彼の仕事場の通勤物語だろう。とはいえ、人の仕事場はいつも企業秘密とやらで なかなか見えるものではないから、…
ちょっとしたホラー小説というところなんだけれど、 まったくうまく噛み合わなかった。その「恐ろしいもの」を直接に描かないことで恐怖を与えるという書き振りなのはわかる。 しかし、書かれていないものの恐怖はリアクションだけで伝わるかというとそうで…
単純に美しいエッセイ集として読んでも差し支えない。 ここには破調があるけれど、それらは選ばれており、 選ぶことは美に接近することだ。写真は撮影技術以上に編集力がものをいうと僕は思っている。 どのように並べるか、引き延ばすのか、切り取るのか。 …
交渉というとずる賢く立ち回るような印象もあるが 本書は交渉をもっとよいものとしてとらえている。そもそも交渉が発生するのは情報が非対称である時でしかない。 つまり、互いに相手がどういう状況で何を求めているかの情報が完全に共有されている時、 それ…
原題は "East of the West"という シンプルに人を惑わせるような語彙だ。東欧の作家には苦しい状況を反映したものが多いが、 彼は確かにそれが反映されたうえで、 もう一歩抽象化されたモチーフを扱っているように思う。多様なパーソナリティ、複数のオリジ…
祖母の家に飾られた恐竜の皮から話ははじまる。それがあったと言われる南米のパタゴニアへと旅は進んでいくのだが、 なぜか話はすぐにそれていく。 無数のならずものたちが大西洋を渡り、南米で暴れまわっていた。足跡は重ね合わされて、地理と時代は互いに…
重力とは悪しき惰性のことであり、 恩寵は神から求められることなく与えられる奇跡のことだ。思想家というよりは はっきりとキリスト教に近い神学の特性を持っている。 しかし、彼女はキリスト教者ではない。 ユダヤ人の左派闘士であるという肩書すらついて…
メルケルは確かに希有な人物だ。 しかし、歴史は適した人間を連れてくるのであって、 メルケルでなくても、同じような人物がドイツに現れたに違いない。筆者の筆致も彼女の特性を抑制的に描いている。ここでバランスをとるように現れているのは 「右傾化する…
須賀敦子の「トリエステの坂道」以外にこの場所について何も知らなかった。 須賀の作品では詩人のサーバがいた、というくらいしか覚えがなかったのだが、 「サーバ、ジョイス、ズヴェーヴォ」というサブタイトルの並びでなんとなく手に取った。今なら聖地巡…
アイデア出し会議というのは定型化しにくいものであり、 それゆえに価値の高い工程になりやすい。著者は博報堂の社員として実際にこうしたアイデアを手掛けていた人で ここに書かれているものはどれも分かりやすく 行動に移しやすいものが多く選ばれている。…
ペルーのある部族にまつわる伝承を 現代の都市部の人間が語る二重の語りの構造が特徴的な物語だ。考えようによっては「語り部」の伝承であるから 三重になっているとも言えるかもしれない。南米の物語と言えばマジックリアリズムのようなものを期待するが、 …
はっぴいえんど、YMOのメンバーであり、 ソロとしても幅の広い活動を見せる細野のエッセイである。坂本も似たようなところがあるが、 音楽に対する博物学的な好奇心が強い。 つまり、ある土地の、ある時代の音を求める。坂本とのスタンスはその距離感か。 細…
ギケイキとは義経記、源義経のお話ですね。 今回読んだのは最初の巻でまだ続きがあるようでしたが 会話のテンポもよく、楽しめました。町田康らしいめちゃくちゃさが、 当時の野武士たちのイメージとこれほど親和性が高いとは。 というか、町田康は野武士な…
楽しく、発見に満ちた本であると思う。線の文化史ということだが、多種多様なラインが紹介されている。 地図のライン、建築のライン、物語のストーリーライン、裁縫のライン、旋律のラインなどなど。洋の東西を問わずに並べられていくが、 手振り身振りその…
世界中ニュースに溢れている。酷いこともたくさん起こる。 ガザはその中でも長きにわたって苦境を強いられている場所のひとつだろう。著者は繰り返し現地に赴き、 そのたびごとに人と触れ合い、 隣人として苦難から目をそらさないようにする。しかしながら、…
ITツールと言っても高価なシステムを導入しろという話ではなくて 当たり前にある環境の使い方、考え方の紹介である。とはいえ、そもそもコンピューターの使用自体が それほど浸透から時間の経っていないもので、 使用者に対するリテラシーの要求水準がばらつ…
経理という仕事は、コストセンターと呼ばれてしまうが、 それ故に非効率が気づかれないまま放置されてしまうことが恐らくある。そういう点で、何に気をつけて点検するべきか教えてくれる本である。 驚くような技があるわけではない。 そりゃそうだよな、とい…
小説はフィクションでも、フィクションだからこそ 単に人がそう思っているだけのことを書いてしまえる。 シャルリエブド、同時多発テロ、黄色いベスト、 一体全体フランスでは何が起こっているのか。 そんな興味で本書を手に取った。主人公は大学の教授で文…
見田宗介は社会学専攻の一部のタイプに人気がある。 宮台真司よりは文化人類学的で、 中沢新一より計量データをきちんと扱う。まぁ、僕の好きな先生です。 その新刊なんですが、これは少し物足りなさを感じる。内容としてはサブタイトル(省略してしまってま…
会社法というのは商法から派生して現れた 比較的新しい法律のようだ。これは会社というものの存在感の増大に加えて 株式市場の整備という側面がある。 本書は入門ということなので、 法人という概念の説明から丁寧にやってくれている。なので、会社法の必然…
クレオール文学というものがあって、 あのエキゾチックが内包された、 悲しみと楽観のマーブル模様を楽しみつつも遠くに感じていた。ただ、この温又柔のエッセイはまぎれもなく 日本にもクレオールと同じものが存在しているということを 優しげに提示してい…
日本電産はこのところの日本の電機メーカーの中で 気を吐いている貴重な会社のうちのひとつだろう。積極的にM&Aを繰り返しながら、 それぞれを再建させていって、独自の地歩を築いている。精神論的なことを言うので、あまり信頼感は高くないのだけれど 実際…
2000年に佐藤俊樹の「不平等社会日本」が出てから18年。 今の日本の社会階層についての本格的な研究の後続である。それまでの研究にも敬意を払いながらも 独自の照射角度で「階級」の実態をあぶり出す一冊となっている。この人たちはなぜこのように考えたり…
シュミットは1888年〜1985年のドイツの法哲学者である。(wiki調べ) そして前書きによると1922年に第1版が上梓され、12年後に改訂版を出版したとのこと。世界史に詳しくないのであまり突っ込みたくはないけれど この時期のドイツというのは相当な動揺期であ…
値決めは経営とは稲盛さんの言葉ですけど、 もっとも戦略的に決定されるべきものだというのは本当に間違いのない話です。この本はそうした値決めに関わる視点を 事例を多く出しながら説明してくれます。 ただ新書という形態もあるとは思いますが、考え方の紹…
ビジネスの世界が色々と変われば それにつれて法律も変わり、判例も新しいものが増えていきます。 一応、いざという時に備えて、斜め読みくらいできたらなと思ってトライ。パターンと法的思考の原則を教えてくれる本として仕上がっています。 初学者でも分か…
無人島に不時着した少年たちの サバイバル・サスペンスといった趣。バトルロイヤルものの原型としての 形式的が感じられてそれ自体興味深くもある。 あからさまに敵対しそうなやつがきっちり敵対して、 あわれな犠牲者は最初の予感に違わずおまえなのか、と…