「エストニア紀行」梨木香歩
旅には目的地を楽しむことと
旅のフィーリングを楽しむこと、大きく2つある。
本書は後者の気分が色濃く出ている。
だから観光案内を期待して読むと
少し肩すかし感があるとは思う。
ただ、できるだけ誠実に旅行者として
そこにある土地の目線に寄り添おうという
筆使いは好感が持てる。
また、これは辺境のための文学としても描かれている。
辺境についての、でも辺境による、でもなく、
旅行者としての資格で辺境に捧げられている。
作者としての姿勢であり、優しい人柄を感じもするが、
言葉は本来的にもっと暴力的なものだ。
その暴力を極力発現させないようにと気をくばっていることは分かる。
だが、そのような意識があるなら、
なお踏みにじることもありうるような
書きぶりがあっても構わないと読者としては思う。
そういう意味ではそこが先鋭的に現れている
アメリアの幽霊話は好きなエピソードとして挙げられる。
それから、絵の女性としみじみ見つめ合う。やっぱりだめだ。ベッドに寝ると、斜め下に当たる私の顔を、夜中に見下ろされていそうだった。申し訳ありませんけれど、と呟きながら、額に両手をかけ、外そうとした。
エストニア紀行: 森の苔・庭の木漏れ日・海の葦 (新潮文庫)
- 作者: 梨木香歩
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2016/05/28
- メディア: 文庫
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