「山でクマに会う方法」米田一彦
サブタイトルに「これだけは知っておきたいクマの常識」
これはちょっとずるいですね。
それじゃぁ教えておくれよ、となりますよね。なりませんかね?
中身はいたってスタンダードな日誌風の断章に
ワンポイントコメンタリーがついてくる形式。
読み物としての味はだいぶ淡白である。
ただ、役所の人間として鳥獣保護に携わってから
フリーのクマ追い人となるというその辺の事情は
特に書かれてないけど普通ではない。
それはこの人が異常と言いたいのでなくて、
普通ではない道を選ぼうと思わせるだけの異常事態が
彼の目の前にあったわけだ。
クマの被害は確かに存在して泣いている人も多いが、
クマ被害はクマが問題の原因なのか?
真摯に問題に向き合う姿勢は賞賛されていいものと思う。
それと、実用書的にはクマに会いたくない人も
山登りが好きなら知識として抑えておくべきことがまとまってますので
ご一読をお勧めします。
- 作者: 米田一彦
- 出版社/メーカー: 山と渓谷社
- 発売日: 2011/04/04
- メディア: 文庫
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クマは夕方五時三〇分になると決まって”出勤”してきて、場主が帰るのを正座して催促するという。これはみなくてはなるまい。
遠くから双眼鏡で見ていると、ほぼ定刻にクマと場主の、ののしり合いが始まった。場主は座って待っているクマに、なにやら広島弁でどなり、なにかを投げつけている。(p.164-165)
なんというか、コミカルなんだけれども、そのあとやっぱり食べられていて
エグい被害になっているのと、それをまずはただ見ているだけの
筆者の立ち位置とかぱっと見よりもかなりめんどくさい構図ではある。
再びイヌがほえ、クマが体を突き出すことが続いたが、十五分ほどたったとき、クマが頭を突き出すタイミングとイヌが入り口に近づいてほえつくタイミングが運悪く合ってしまった。イヌの頭はクマのつめに手繰られ、がぶりとかまれてしまった。
(中略)
越冬中の親子グマはやはり安全だと、私はこの事件で確信した。母グマは人が穴のすぐそばに立ったとか、のぞき込んだとか、極端なことをしないかぎり穴から出てこない。(p.181-182)
ショッキングな描写もあるけれど、保険外交員のような
冷静さで対応しようと努めていることが分かる断章。
クマは理解可能な動物だ。しかし、それには理解しようとする心があなたに必要だ。あなたがもしクマを怖いと思うなら、それなら心配ない。遠くから見ているだけにすればよいし、避けて通ればよい。クマよりあなたのほうが融通のきく文明人ではないか。(p.234)
他者理解の手つきのひとつのサンプルでもある。