「豊乳肥臀」<上巻>著:莫言
ノーベル賞と聞いて身構えて読んでた感はあるけれど、
割とオーソドックスな小説だと思う。
上巻では日中戦争の流れを濃く写しとりながら
7人の姉たちのそれぞれの半生を見せていく。
僕は細雪を思い起こしていた。
あんな絢爛な舞台ではないが、地元の有力な家ではあり、
その社会的な地位の変動が個人に落としていく影とか。
ただしこちらは生臭い。そして、死が近すぎる。
姉の中では鳥の巫女になった話が特に印象的だったかな。
狂人への畏れとそこにある美しさは確かだ。
我々は狂ってないフリをして美しさだけ戴こうとする。
主人公はまだ青年にもなっていないまま上巻を終えてしまった。
いや、上巻の半分くらいは赤ん坊であったような気がする。
誰かが爆死してもお乳が飲めないことに恨み言を言うような
主人公の視点が延々と続いていたのだ。
これは確かに、並々ならぬ筆の体力だと思う。
- 作者: 莫言,吉田富夫
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 1999/09
- メディア: 単行本
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マローヤ牧師は、首をつづけさまに振って、
「いかん、いかん。狗(ゴウ)だの猫(マオ)だのと、神の御心に背いておるのみならず、孔子さまの教えにも背いておる。孔子さまの曰く、<名が正しからざれば、言は順(したが)わず>、とな」
「わたし一つ考えついたんだけど、どうだろうね、上官アーメンというのは?」(p.137)