『豊乳肥臀』(下)著:莫言
なるほどこうやって終わらせるか。
あくまで絵巻物であり、叙事詩として描いたのだから
こうやってもよいだろう。
共産党時代は内戦や戦争の頃に比べれば
死ににくなったかもしれないが毀誉褒貶の激しさは変わらない。
主人公もその荒波の中で、
揺れ動いた中国の上澄みから淀んだ泥水まで転がりながら読者に見せてくれる。
この作家が偉かったのは土地の記憶から離れなかったことだ。
上下巻に渡り一家は離散して、散り散りになるも最後は故郷に戻ってくる。
それというのも常に母親がその土地にへばりついているからだ。
その土地が自分のものでなくなった後も、
自分が死んだ後もその土地に居続けるその有り様は
下巻で明かされる彼女の若き日々とも合わさって壮絶である。
ただ、その派手さとは別に土地の記憶として歴史を描こうとする姿勢は
政治とは独立した中国の歴史を掴み直そうとする誠実さだと思う。
そして、何よりこの筆の膂力とも言うべき書き振りは確かなものだ。
星3つだが、人生に無力感や倦怠感を覚えている人には勧めておこう。
救われない人生としても、いつかどこかで誰かに会える気がする。
報われるかどうかは別にしても、
一瞬に世界の色合いが変わるような出会いは確かにあるような気がする。
- 作者: 莫言,吉田富夫
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2014/01/15
- メディア: 単行本
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「どれ、お祖母ちゃんに触らせておくれ。痩せたか、肥ったか、見てあげよう」
母親の手が、司馬糧の頭を撫でた。
「なるほど、わしの糧児じゃ。人間はの、どんなに変わっても、頭の骨は変わりようがないのじゃ。生涯の運がぜんぶここに刻まれておる。よかろう、この肥え具合ならよかろう。おまえも、どうやらましな暮らしをしておるとみえ、メシにはありつけるようじゃの」(p.282)
ついさっき家を取り上げられ公務執行妨害として逮捕されかけたところを
孫にあたる司馬糧が偉くなって助けに来たところ。
親が気にすることなんて、つまるところこの一点なんだろう。