「七緒のために」著:島本理生
正直に言って「七緒のために」は星4つで、傑作ですが、
後半の「水の花火」はいかにも習作であって
前のがあるから読めるという体なので
本全体としてはやはり星3つにせざるを得ない。
最高でも星4つなのは
丁寧すぎて繊細すぎるというあたりで
手癖と言うほど雑なものではないけれど
時折これ見よがしなところがある点。
それをのぞけばかなりの濃度でこの時代を描ききっている。
特殊な物語とはまったく思わない。
誠実でないものを用いて誠実であろうとする態度は
小説家としては当たり前の営みで究極の目的であろう。
偉大な嘘つきであることを吹聴するのは
川上弘美で最後になってしまったと思う。
だから島本はこの話をビルドゥングスロマンとしては描かなかった。
思春期の主人公を出しておきながら。
他にもスクールカウンセラーの来栖の関わり方は
本来ならミステリにおける探偵にもなり得たものを打ち捨てた形になっている。
こんな読み方は、叙情性も高く
えぐりに来るようなセリフも多いこの作品の楽しみ方ではないかもしれない。
しかし、誠実さのために闘われた
この作品に敬意を表することを、僕は優先させよう。
作品の面白さは読めばわかるし、読まずにわかるものなら読まなくていい。
- 作者: 島本理生
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/04/15
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (3件) を見る
私はいかに転校前の私立の学校が血統書付きのペットみたいに隅々までお金がかかっていたかを悟った。(七緒のために:p.18)
最序盤の毒。もちろんアンチテーゼだが、
ペットでなかったとしたらなんなのか。
この目は、珠紀が残していった目なのか、それともわたし自身の目なのか、今でも正直言って区別がつかない。本当は他の子のおもちゃを欲しがる子供のように、彼女が誰よりも良いと認めた男の子だから自分も良いと錯覚してしまうだけなのかもしれない。(水の花火:p.75)
こうやって要約できてしまうようなセンテンスを
書くようでは我慢が足りない。
いや、デビュー直後の作品というから鍛錬を積んだのだな、という感想はあるが。