「実録 アヘン戦争」著:陳舜臣
戦争が始まってしまった理由というのには興味がある。
人を殺す許可を互いに出すのが戦争であり
それは端的に倫理的ではない。
それに値する何かがあると考えてするのか、
倫理などというのは糞の役にも立たないのか。
さて、本書は言わずと知れたアヘン戦争である。
世界の帝国の一つであるイギリスが貿易で阿片を持ち込むようになってから
それに反発をした中国を逆に武力でやり込めて香港を割譲させたのが
この戦いのあらすじで、これが覆るわけではない。
ただし、その際に中国側の役人がどのような覚悟で向かったか、
その際の筋の通し方など、中国人の士大夫の強さが見えるし、
結局こじれた時に、首をすげ替えたところどんどん後手に回ってしまう
官僚主義的な問題の延焼の仕方とか、示唆に富む。
また、イギリスも開戦にあたって戦費の支出を議会にかけた時に
賛成 271
反対 262
であって、「不名誉な戦争である」と言った演説もあったことは
十分に記憶すべきで、それは
そこまで言っても別に止められなかったということを記憶したいと思う。
- 作者: 陳舜臣
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 1985/03/10
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禁令を嘲笑するように、アヘンの輸入はますますふえる一方であった。もちろん密輸なのだ。
あきらかに、これは為政者の怠慢である。
彼らは人民が時を廃し業を失っても、それほど痛痒をかんじない。むしろ人民が賢明になることをおそれた。為政者にとって、愚民政策は魅力に富んでいる。(p.42)
為政者にとって国を治めることが簡単に見える時、
その国は傾いているのだろう。
アヘンこそは、疲弊したベンガル政庁の財政にとって、命の綱ともいうべき収入であった。清国がアヘンを買わなくなれば、英国のインド支配は揺らぐのである。イギリスは、どうしてもアヘンのために戦わねばならなかった。(p.198)
そうでなければならなかった戦争などほとんどないが
払うコストのためにかえって高い価値があるかのように称揚されることがほとんどだと思う。