「ボン書店の幻」著:内堀 弘
とある詩の出版社として短い間に印象を残した個人の肖像です。
著者が古書店主でもあり、装丁や書誌情報の流れは
網羅的でツボを押さえており、図版も充実していて
それを眺めるだけでも楽しい。
ただし、後書きがズルすぎる。
表には出なかった人だから直接に聞き書きをするわけではない。
各種出版物の足跡や、交友のあったであろう人への取材、
他の同人誌への寄稿や出身学校へのアプローチなど
著者の取材は熱意を持って、近づこうとしていく。
けれど、1930年代に活動していた小出版社の
一人事業主なんて足取りが掴めなくても当然である。
結局生まれなどもはっきりしないまま、
おそらく最後の住まいになったであろうところを訪れて終わる。
これだけでも十分に力作なんですけれど、ね。
冒頭に申し上げた通り、後書きがズルすぎるのであります。
初読のときはうっかり後書きから読まないようにしていただきたい。
それにしても日中戦争も始まっている中で、
詩人は詩をこねくりまわしていたのだという事実。
別に希望を見出すようなことではなくて、
そうするしかできない人たちはやはり、そうしているのだな、と思う。
- 作者: 内堀弘
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2008/10/08
- メディア: 文庫
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『ウルトラ・ニッポン』の同人消息にも鳥羽はふんわりしたオカッパ頭で女にもよくもてると紹介されている。もちろん、陰鬱なオカッパ頭もいていいのだが、ここでのイメージはとても軽やかだ。(P.56)
プロデューサーたるもの軽薄でなくてはならない。
そういう気がする。