ヨモジジ(freaks ver.)

本と雑貨と音楽と、街歩きが好きなオッサン。1981年生まれの珈琲難民が好き放題に語る。レビューのためのブログ。

「物語論 基礎と応用」著:橋本陽介

完全な初級者向けとして書かれているけれども
用例の紹介の豊富さと、扱う理論の幅の広さは
今あるもののなかでは随一と言っていいのではないだろうか。

形態論、文体、構文、ナラティブの問題、展開などなど、
物語にまつわるものでいったら、あとは読者論くらいじゃないだろうか。

個人的に物語論の大事なところは
文章の技術と効果から純粋に物語をすくい出すところだと思ってる。
それは物語の物語性は、ほとんど人間性の基礎に根付いているからです。
ただの断言ではありますが、これに対しては物語に対する飢えが
少なくとも私に存在しているからそう言っています。

また、もっとも応用という意味でもすくいあげられた物語は有用です。
つまり、この本でも「シン・ゴジラ」や「この世界の片隅に」(漫画版)など
文章以外のメディア作品を扱えるのも、物語に固有のパラメータが存在するからです。

それにしても、各章立てごとに
複数の実例を挙げて説明していくのは、
著者自身の喜びがここにあることを証し立てているように思います。

本を書きたい人だけでなく、本の読み方の幅を広げてみたいと思う人にも
この著者の軽やかな紹介はきっと役に立つと思う。

物語論 基礎と応用 (講談社選書メチエ)

物語論 基礎と応用 (講談社選書メチエ)

歴史や、ドキュメンタリー、ニュースなどが物語だとするなら、これは明らかに現実とつながっている。しかし、それはすでに語られている以上は、もう現実そのものではない。
逆にファンタジーなどは、ありえないことが起こるから、さらに現実世界と離れているように思われる。しかし、それでも、人間が想像しうるものしか書くことはできない。想像しうるものでなければ読者のほうも理解不能である。とすれば、依然として現実世界が投影されているのである。(p.259-260)

語られているから、現実そのものではない、と現実ではない、のあいだ。
それと、
想像しうるものしか書けない、と
起こりうることがすべて起こりうる、ということの距離感。

渡るべき川がどれかは知らないが、橋の架け方は覚えておきたいものだ。