「理不尽な進化」著:吉川浩満
これは進化論についての本ではありません。
科学と一般的な理解との隔たりについて丁寧に書かれたものです。
と、言ってしまうには進化論についての言及はしっかりしている。
この具体的なコミットメントがあってこそ、この人の立論は意味を成すのだから
当然といえば当然なのだけれど、中々の労作であることは間違いない。
特に人間的理解について歪みであると断じるのは簡単だけれど
それを歴史と結びつけて、これも人間性のまっすぐな発露であると
限定的でも肯定しているのが好感が持てる。
もっともそれ故に、困惑させられているわけだけれど。
フェイクニュースの蔓延や科学的正しさの伝わりにくさに
居心地の悪さを感じる人は読んでおくと、
いくらかの解毒効果を発揮すると思う。
- 作者: 吉川浩満
- 出版社/メーカー: 朝日出版社
- 発売日: 2014/10/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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世に出てきた生物の九九・九パーセントが絶滅するという事実だけでも十分に強烈なのに、それらはたいてい運がわるいせいで絶滅するというのだから。生物は落ち度もないのに絶滅する。しかも、それこそが普通なのである。(p.44)
まぁ、そうだよね。死ぬときゃ、死ぬよ。
そこでその色を光の波長であらわすことになるだろう。このようにして科学は、特定の人や文化や立場からできるだけ離れた視点から対象を描写しようとする。これが絶対的な捉え方である。注意しなければならないのは、それはあくまで「絶対的」(absolute)な捉え方であって、「完全」(perfect)な捉え方ではないという点だ。(p.366)
科学が可能にしたことと、科学が目指さなかったもの、その一端がここに示されている。