「ロスチャイルド家」著:横山三四郎
ユダヤ人の陰謀だとか言う時には
ロスチャイルドがどうたらなどとくっついてくるものですが
実際のところはあんまり知らないもので読んでみた。
古物商というか、古銭を扱う商人として貴族に入り込んでいって
1代で足場を築いてのち、息子たちがヨーロッパ各地に散らばり
金融と情報ネットワークを確固たるものにするスピードは驚異的なものだ。
才覚は当然あるだろうが、時代背景として
産業革命から資本主義の萌芽の流れにうまく乗っていったのも大きいように思う。
実際、楽天の三木谷は一代で銀行を含む企業グループを作っているし、
こうした資本の蓄積スピードは時代が下る程早くはなっている。
政治との癒着関係というのも気になるところだろうが、
たしかに、ロスチャイルドが興った初期は貴族が居たが、
民主制が発展するほど、資本家が関与できる範囲は政体そのものから
政治家個人の単位へと限定されていく。
また、先に述べたように資本は今の方が流動的な動きをするようになっており、
ロスチャイルド銀行は突出した存在などということはない。
ただし、今もクローズドで家族的な経営主体を貫いているのは特色としてあるし、
ユダヤ人のための活動に陰に陽にと携わることはあるだろう。
しかし、文中で特に印象的だったのは
グローバルな資本であるゆえに紛争を防ぐために奔走する姿である。
それは資本主義のポジティブな要素のひとつとしてとらえていいだろう。
- 作者: 横山三四郎
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五人の兄弟が密着している肝心の国家がそれぞれ利害を異にして角突き合いを始めたためである。国境を越えて繁栄しようとするロスチャイルド家の利益は、国境という鎧を着けてその目的を追求する主権国家の利益とは必ずしも一致しない。その矛盾が表面化したのである。(p.81)
後段で保守的な勢力としての側面が非難されたともあるのだが、
それでも、殺さない、破壊しないという方向性は支持できる。
ぶどう園を隣り合わせに持つパリとロンドン両家の冷たい関係は二〇年も続いた。そして、一九七三年、ついに格付けの再検討(ボルドー・メドック地方)が行われ、ムートンは第一級に格上げされた。ほかの多くのワインについても検討されたのに、変更されたのはムートンただ一つだった。ロスチャイルド家の政治力が大いに発揮されたことは確かとみられているが、ともあれ半世紀にわたって土壌の改良と品質の向上に努めてきたフィリップ男爵の努力は報われ、ロスチャイルド家はついに二つのプルミエ・クリュを手中にしたのである。(p.30)
なんというか、
この負けず嫌いの感じは人間味があっていいエピソードと思う。
また、この競争関係が同族会社の中にあって活力を生んでいるんだろう。