ヨモジジ(freaks ver.)

本と雑貨と音楽と、街歩きが好きなオッサン。1981年生まれの珈琲難民が好き放題に語る。レビューのためのブログ。

「蠅の王」著:W・ゴールディング

無人島に不時着した少年たちの
サバイバル・サスペンスといった趣。

バトルロイヤルものの原型としての
形式的が感じられてそれ自体興味深くもある。
あからさまに敵対しそうなやつがきっちり敵対して、
あわれな犠牲者は最初の予感に違わずおまえなのか、と言った具合。

そういうエンタメの側面以外にこれは
文学的装いとしての「蠅の王」の登場シーンもある。
ただ、これはだいぶ意表をつかれた。
エンタメ的な読み方をしてしまうから本線からずれたように
つい感じてしまうが、もっとシンプルに寓意的に読んで構わないんだろう。

だから、決着のつき方も唐突な感じを否めないが
それ自体決着の着く必要のない問題だったのだ。
ピギーの扱いが割とひどいのも
寓意的には、やむを得ないんだろう。
そういう割切りこそが近代的残酷さな気もしますが。

蠅の王〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)

蠅の王〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)

ラルフがなおもほら貝を吹きつづけると、森のなかで何人もの少年の叫び声があがった。台地にあがってきた少年は、ラルフの前でしゃがみ、明るい表情でラルフを垂直に見あげた。(p.26)

最初はこんな無邪気な感じだったのに、ねぇ。

服はすり切れ、ラルフのものと同じように汗でこわばっており、まだそれを着ているのは体裁のためでも快適さのためでもなく、ただの習慣にすぎない。体の皮膚は塩をふいて、ふけがたまったようにーー
いまはもうこの状態を普通だと思っている。それに気づくとラルフはちょっとげんなりした。(p.191-192)

島のサバイバルの描写は実はそれほど詳しくないが、
彼らの人間性についてはこのような感じでリアルに分かる。
いや、仕事に疲れててもこんな感じの人間性の低下ってあるよね、怖い怖い。