「チョンキョンマンションのボスは知っている」著:小川さやか
中国は重慶、香港そこにアフリカ人のコミュニティ
があるというだけで興味はそそられる。
とりわけ、アフリカのイメージというのは茫漠としているし、
帯にはタンザニアと書いてあるが、
タンザニアがアフリカのどのあたりかというのも分かっていなかったりする。
しかし、人類学とはサファリパークのように
車内に閉じこもってジープで移動するわけではない。
無論、むやみに飛び込むわけでもなく、
むしろ、その当該の当事者であれば振る舞うようなやり方で
コミュニティに入っていく。
不真面目なようで、出たとこ勝負のようで、
それでも確信を持ってルーズに渡り合う彼らの生活は面白く、
それに翻弄されながらも、やられっぱなしにならない著者のタフさも読んでいて楽しい。
また、そのインフォーマルなコミュニティに接続する
ウェブプラットフォームとそのビジネスのあり方も興味深い。
整備されていない流通路ほど商いが立ち上がるというのは
古今東西変わらないものだとも思う。
人類学とサブタイトルに入っているが、読み物として十分に楽しい。
それは著者の対象との距離感が常に適切で、
フラットに愉快な友人を紹介するような感覚を受けるからかもしれない。
チョンキンマンションのボスは知っている: アングラ経済の人類学
- 作者:小川 さやか
- 出版社/メーカー: 春秋社
- 発売日: 2019/07/24
- メディア: 単行本
彼らは、「信用するな」と言いながらも、偶然に出会った得体の知れない若者を気軽に部屋に泊める。「信用するな」と私に忠告する相手と食事をおごりあい、カネを貸しあい、時には別の次元で「彼/彼女は信用できるやつだ」とも「信じていたのに裏切られた」とも言う。
(p.51)
これは裏でヒソヒソやってるという話ではなくて、
人のつながりを信用ならない相手でも築こうとするオプティミスティックな性向があらわれてる。
香港の不安定な身分、ひとたび成功を掴んでもちょっとした不運や油断でジェットコースターのように転がり落ちる暮らしは、目的地に至る旅の過程だという思い込みに、すぐに私は囚われてしまう。だが、日々の営み自体に実現すべき楽しみが埋め込まれていれば、一生を旅したまま終えても、本当はかまわないのだ。(p.227)
旅に終わりを求めるかどうか、それは好みだ。
しかし、誰もが同じような旅をするわけではないことを忘れてしまいがちだ。