『パタゴニア』著:ブルース・チャトウィン 訳:芹沢 真理子
祖母の家に飾られた恐竜の皮から話ははじまる。
それがあったと言われる南米のパタゴニアへと旅は進んでいくのだが、
なぜか話はすぐにそれていく。
無数のならずものたちが大西洋を渡り、南米で暴れまわっていた。
足跡は重ね合わされて、地理と時代は互いに引きずり合うように進んでいく。
歴史的事実から、現在の会話、資料、および書簡など
様々なスタイルが混ぜこぜになりながら読者を飽きさせないように
旅をナビゲートしてくれる。
ただ、実のところを言うと僕はうまくついていけなかった。
リズムが早すぎて像を結べないままに次の話に行ってしまう印象だ。
いや、それは意図的であるかもしれない。
冒険の意味が分かるのはそれが終わってからのはずで、
この本がひとつの冒険であるように作られているのなら
意味などわからないままに出来事は山積していくのだ。
- 作者:ブルース チャトウィン
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2017/09/05
- メディア: 文庫
死んだおじさんというのは、一九〇〇年九月十日、ネヴァダ州ウィネムッカのファーストナショナル銀行に強盗に入ったワイルド・バンチ・ギャング団のことをいう。手紙を書いたのはロバート・リーロイ・パーカー、当時ピンカートン探偵事務所のおたずねもののリストのトップに名を連ねていた男で、むしろブッチ・キャシディという別名で世間に知られていた。(p.82)
固有名の連なりは神話的星座の描き方に近い。
一八九〇年代、かつてパタゴニアで芽吹いたダーウィニズムが、残酷な形でパタゴニアに戻り、それがインディオ狩りに拍車をかけることになったようだ。(p.206)
それに直接追悼の意を示すことはないが、語る言葉を持たないうちに虐殺された現地人についての言及は多い。
「唯一合法的な武器は拳骨だよ。へっ!俺にたてついたやつは全員地面の下で眠ってるぜ。ここにいるのは神じゃなくて権利だ」(p.338)
会話はなんというか、映画的である。