ヨモジジ(freaks ver.)

本と雑貨と音楽と、街歩きが好きなオッサン。1981年生まれの珈琲難民が好き放題に語る。レビューのためのブログ。

『技術の街道をゆく』著:畑村洋太郎

書名のとおり、技術の現場を巡りながら
技術がいかにして受け継がれ、かつ変容してきたかということを見せてくれるエッセイだ。

ただ、正直に言うと話のネタはそれぞれ面白いのだが
本の全体の方向性はあまりうまく作れなかったのではないだろうか。
おそらく最終章の「思考の展開法」がひとつの解答のようにしたかったはずだが
それより多くのものを事例が示していると思うので、
ここは別の本も出していることだから、あえて書かなくてよかった。

筆致は非常に饒舌であるから、編集者はそれに負けてしまったのだろう。
著者の責任よりは僕は編集者の責任と思う。

しかし、取材はしっかりどの場合も現場に赴いたうえでの考察であり、
技術者としての視点は確かなものがあるし、好奇心の広さと鋭さもよい。
もう少し範囲をしぼってこの人が探求したものがあれば面白いのではないか。

技術の街道をゆく (岩波新書)

技術の街道をゆく (岩波新書)

たたら製鉄の反応速度は遅く、現代製鉄の反応速度は速い。現代製鉄が短時間に大量の銑鉄を作れるのは、この反応速度の速さによる。しかし、高温のためにリンやケイ素などが不純物として混ざってしまう。それを第2段階のプロセスである転炉で取り除き、鋼に変えるのである。ただし、完全に取り除くことはできない。成分量で見ると、たたら製鉄による鋼と比べて不純物が1ケタ多い。(p.38)

ほほう。というところだが、このたたら製鉄は一度完全に立ち消えたものを改めて立ち上げたとのことで、著者がこのように取り上げることはその立ち上がった火を残すことに貢献するだろう。

地元の消防団の人は「電気が来ないと閉められないような扉ではいけないのです」と話してくれた。まずは人力、もしもの時は駆動装置の力を借りて閉める。駆動装置は電動ではなくガソリン駆動であった。電気をむやみに信用してはいけないと指摘されて、ハッとしたことを今でも覚えている。(p.58)

岩手県宮古市の田老の防潮扉についての記述であり、先のセリフは大震災の前であった。
誰かを助けた様々な仕組みや知恵は確かにあったのだ。
足りなかったかもしれないが、何もなかったなどということは当然なかった。