ヨモジジ(freaks ver.)

本と雑貨と音楽と、街歩きが好きなオッサン。1981年生まれの珈琲難民が好き放題に語る。レビューのためのブログ。

『七つの夜』著:J・L・ボルヘス 訳:野谷文昭

いかにもロマンチックなタイトルだ。
夢十夜とか、千一夜物語
夜の数を数えて一体どうするのだろう。

数えることで何かが変わることはないが、
しかし、人は数えてしまうのだ。
例えば夜が明けた時にかつて蒔いた種が芽吹いていないかと期待しながら。

本書はボルヘスの文学に対する愛情が溢れた七つの講演録だ。
いや、最初の「神曲」はともかく「悪魔」やら「仏教」やらも文学なのか?
というとそれは確かに文学ではない。

しかし、全編に溢れ出ているボルヘス自身の情熱は全て
文学に対する信頼と慕情と敬愛によるものとしか受け取れない。

「悪魔」や「仏教」について語るときは
それらを分析しようとして語るのではない。
ただそこにある概念がどのような地平に存在しているのかを描き出そうとしている。
意味と意味の結びつき、言葉の星座を描くことは文学という方法で語っているのであって
文学について語っていないときも彼は文学に対する絶大な信頼と愛情を示しているのです。

本人の作品より先にこういう講演集から読んでしまったことは
間違えてしまったかと思ったが、ボルヘスという人の存在の大きさは
これでも十分すぎるほど感じられるものでした。

七つの夜 (岩波文庫)

七つの夜 (岩波文庫)

私の考えでは、ユリシーズの逸話は『神曲』の中で最も謎めいている以上に、おそらく強度も最高でしょう。ただし、どの逸話が最高峰であるかを知るのは非常に難しい。『神曲』は最高峰の連なりでできているのです。(中略)『神曲』は私たちの誰もが読むべき本です。これを読まないと言うのは、文学が私たちに与えうる最高の贈り物を遠慮することであり、奇妙な禁欲主義に身を委ねることを意味します。(p.34-35)

こんな熱烈なラブレターもなかなかないだろう。
読むべき本が増えるからご勘弁ください。うひー。

ある真昼時、ブッダは砂漠を越えなければならなかった。すると神々が、三十三の天空から、それぞれがひとつずつ影を投げかけてやるのです。ブッダは神々を誰ひとりないがしろにしたくなかったので、三十三に分かれます。そうやって、それぞれの神が上から見ると、一人のブッダが自分が投げかけた影に守られていると見えるようにしたのです。(p.116)

神に対して配慮するなんていうのはとても面白い。
ヨブの神とは大違いだ。