『椿井文書ーー日本最大級の偽文書』著:馬部隆弘
どのように偽文書が現れて、あまつさえ普及してしまうのか。
椿井文書とは椿井政隆(1770ー1837)が中世のものと偽って作った資料群で
家系図や地図そのほか多様な種類のものがある。
こうしたものが作成された背景として
地域ごとの政治的な綱引きの中で、
その歴史的裏づけを強化あるいは捏造することに需要があったことが指摘されている。
そういうわけなので、胡散臭いと思っても
政治的に有利になる側は黙認してしまう。
そして地域にその説が流布されていく。
さらに言えば、中央政府の政治に関わる話ではなく
あくまで地方の村同士の小競り合いに関わるところゆえに
知識人の介入が少なく否定されにくかったところがある。
そして近年の研究者の中で、その信憑性の低さは分かっていても
郷土史に根付いてしまって否定するのが難しくなっていたり、
「ことの真実はさておいて、こんなことも言われてた」などという扱いで生き残ってしまう。
フェイクニュースが問題となる現代ではあるけれど
同じようなことはすでに起こってきたことであるわけだ。
ところで、椿井の活動エリアが関西で、
それも京田辺あたりもよく出てくるので大学で下宿していた身としては
妙な親近感があって楽しかった。
大正八年(一九一九)の三・一独立運動以降、日本による朝鮮半島の武断統治が方向性を変え、内鮮融和と朝鮮人の皇民化が政策として進められるなかで、朝鮮と日本を結びつけた王仁の墓は、再び注目を浴びるようになる。(中略)
現在も王仁墓の史跡指定は解除されておらず、韓国の要人や観光客の訪問が絶えない。(p.174)
政治的要請は口実だけが欲しいのだよね。
間違いは間違いだったけど、友好の気持ちは今後もあるよ、とやれればいいのですが。