ヨモジジ(freaks ver.)

本と雑貨と音楽と、街歩きが好きなオッサン。1981年生まれの珈琲難民が好き放題に語る。レビューのためのブログ。

『新年の挨拶』著:大江健三郎

これはエッセイではあるのだが、

よくある主観カメラ的な世界を映したものではない。

 

もちろん、ごく私的なことからはじめられているのだが、

その発話する私の届けたい相手、反響をうかがいたい相手が

これらのそれぞれの断章の中に織り込まれている。

 

大江健三郎が戦後派であることは

これらの不透明な他者の存在が確信させてくれる。

 

穏やかで何かみずみずしさを感じる本だった。

 

 

 

僕は、傷ついている父親を見て深い印象を受けたし、かつ早く父を失ってしまったために、うまく大人になりきれていないところがあるように思うのです。端的に、僕は誰に対しても、権威ある強い者のやり方で命令することができない。サルトルが、自分は笑いながらでしか命令することができないといっている、あれです。(p.88)

子としての自分を振り返りながら、この後、父としての自分を振り返る。ある種の不能としてとらえているようなところがあるが、いくらかの悲しみもありつつも、これでいいとも思っているような具合だった。

 

強くあることは望ましいわけでもなく、そうできるというのでもなければ、

そのうえで、幸福を見つければいい。