「胡椒 暴虐の世界史」著:マージョリー・シェファー 訳:栗原泉
胡椒が人を翻弄してきた歴史を紐解いていく。
帝国主義的な脈絡の中で話せば、海洋大国の東方世界への進出と征服ということではあるが
そもそも東インド会社などの設立を考えると、単なる国家事業とは趣が違う。
まず第一に利潤を生むからこその進出であり、そのために国を巻き込んでいく。
利害関係は主従がどちらにあるか分かりにくいし、
現地においては本国のコントロールが効くはずもない。
また、現地の人々もなすがままだったということもなく
それぞれに結びつく相手を見極めながらより優位な状況を作ろうとしている。
本書は正直なところ統一的な視点というものが乏しく見える。
けれども、それはこのように複雑な状況の中で蠢いている力学の観察のためには
誠実な態度であったかもしれない。
(それにしても最終章にスパイスの薬効の話は本当に必要だったろうか?)
どのようにしても一筋縄ではいかない出し抜き合いの中で確かなことは
征服者も被征服者も互いにここではよく死んでしまったということだ。
配当を当てにして待っていた富裕層だけが安全であった。
一五八八年にイギリス海軍がスペインの無敵艦隊を破ったニュースは、スマトラに届いていたようである。アチェを訪れる商人たちのネットワークはそれほど広く張り巡らされていたのだ(p.91-92)
このスマトラのアチェという街の権力者、スルタンはイギリス人が来たことを聞きつけると話を聞こうとして宴席を設ける。宴はスルタンを満足させたようだが、1ヶ月後にスルタンはそのイギリス人を罠にかけたらしい。なんという戦国時代。
なお、そのイギリス人は1600年頃にスマトラにたどり着いたらしい。ポルトガルもオランダもまだ互いに競い合っていてアチェ自体は独立していた。このあたりが簡単に征服されていたら、そこを拠点に日本はもっと高圧的な外交を受けていたかもしれない。
オランダ東インド会社に雇われた男たちは命を賭して熱帯をめざした。熱帯で大金が得られるかもしれないからだ。日払いの賃金は雀の涙ほどだが、自分で勝手に胡椒取引をすることもできたし、会社の積み荷からスパイスを盗んで一財産築くこともできた。何千キロも離れた本社に、彼らを止める手立てはなかった。(p.185)
無法地帯とフロンティアは紙一重のようだ。
輝かしい光の差すところには混沌としたリスクがあるものだ。