「地政学入門」著:佐藤優
2015年から2016年にかけて行った連続講義(市民講座的なものか)を元にした講義録である。
ということはおおよそ想像がつくと思いますが
広く浅いかんじです。
カバー裏に「帝国化する時代を読み解く鍵となる政治理論、
そのエッセンスを具体例を基に解説する決定版!」と書いてあるとおり
あくまでエッセンスの解説ですね。
それにしても佐藤は胡散臭い。
何が胡散臭いって、「これは危ない理論と言われてきた」
なんて掴みを何度もやるが、そうやって目眩しをかけている。
わざわざ言及することで、注意喚起義務は果たす良心的な語り手に見せようとしている。
しかし、危うさを無害化できるわけではない。
単なる地勢学であれば、もう少し無害だが、
彼がやりたいのは明らかに人種概念に踏み込んでおり、
鋭利な偏見のメガネである。
(和辻の風土も同じ線上だと感じた)
ただ、実務上、それが要求されたであろうことは想像に難くない。
有害ではあるが、利用価値がある概念だというあたりか。
(まぁ、彼自身もそう言ってるわけだが)
少し前の本であるが、ウクライナ問題にも触れられており
前線で動き回っていたプロであることを感じられる。
錬金術は、何百回も何千回も成功しているんです。実際に金が生まれている。しかし、そんなことは近代科学的には絶対あり得ません。卑金属は貴金属にならないから。
ということは、錬金術師は何をやったのか。手品をしていたわけです。(中略)
ここでユングは錬金術の秘密を解き明かしてこう言っている。錬金術師の特徴は、そこにいる人たちの無意識の領域を支配する能力を持っていることだと。(p.87)
明らかに佐藤自身もこのたぐい。厄介。
それはそれとして、そういう厄介なやつはそこらじゅうにいるんだという話ですね。
第二次世界大戦中、ウクライナ人のうち約三〇万人がナチスドイツ側に協力して、ウクライナ民族軍をつくりソビエト政権と戦いました。もちろんユダヤ人殺しなども散々しています。ソビエト側に加わったウクライナ人もいて、そちらは二〇〇万人。だからウクライナにとって第二次世界大戦はウクライナ人同士の殺し合いだったのです。(p.287)
わりと悲惨な話ではあるけれど、
東欧ー中東の紛争はしんどめなのが多い。
このエリアが地政学的に焦点になるような場所だからだと説明されるにしても
そこからの解法は別で考えなくてはいけない。