「祈れ、最後まで サギサワ麻雀」著:鷺沢萌
少年たちの駆け抜けるような青春を
繊細に書き綴ってきたイメージのある鷺沢が近代麻雀で連載していたとは知らなかった。
ここにいる鷺沢は豪快で、酒を飲み、煙草をふかして
大きく勝ちを狙う勝負師(そして負ける)の姿であった。
この勝ちを狙うというのは理想主義的であり、
ロマンティックなところがあると見ればジュブナイルに通じるところも確かにある。
エッセイらしく、七転八倒する筆者の姿で笑っちゃうけど
ことの顛末を思うと、かえってナイーブにも感じられる。
ギャンブルはロクなものではないんだけど、
人生がそれよりマシだって話もなくって、大差ないんだとしたら
彼女のこの真剣さは、人生に対する真剣さに通じている。
望む牌をツモることが
ただ並んだ順に取っている以上のことだと確信して
一喜一憂する鷺沢の姿は、くっきりと目に浮かぶ。
雀荘でなくても、望むものを呼び込もうと祈る人を今までたくさん見てきたはずだから。
最後に未発表の小説がおまけで載っています。
本当はもう少し尺を伸ばす予定だったのかもしれないけど、鷺沢らしいよいものでした。
「麻雀必勝法」も実はあるのだ。それは麻雀をしない、ということだ。(p.10)
これがエッセイの一発目のシメ。
やらなきゃ負けないのに、ということを一番最初に言っておいて
ずっと辞められないから連載が続いていく。
「あ、めめちゃ〜ん?」
聞き慣れた声は作家のS・T先生だ。(p.58)
大体イニシャル・トークだけど、交友関係も垣間見えて楽しい。
よく行く雀荘の常連客小田原ユキが私に言った。
「きのうどうでしたー?」
「やあ、なんか知んないけど何度振っても出る出るヒフミ。負けたわー、●万円ばかし」
小田原が目を剥く。
「アンタ何の話してんのっ?きのうはデートだったんでしょっ?」
「うん、そうだけどそのあとチンチロしちゃったわけよ」(p.132)
愉快な人たちだ。
ここで出ている小田原は連載の中で鷺沢と同じように
チョンボをしたり負けたりしている仲間で、彼女の文章が追悼文として公式HPに載っている。
短い文章だが、この本を読んだらそれも合わせて読むのもいいかもしれない。