ヨモジジ(freaks ver.)

本と雑貨と音楽と、街歩きが好きなオッサン。1981年生まれの珈琲難民が好き放題に語る。レビューのためのブログ。

「かか」著:宇佐見りん

「推し、燃ゆ」で有名かと思いますが、
この人のものはこれが初めて。

思ったよりもナラティブを意識した書きぶりで
それがフォークロアでありながらも現代的であるようにして書き上げていて
こんなに腕力のあるタイプの書き手だとは思わなかった。

一人称の語り手として弟である「おまい」に語りかけるうーちゃんこと私。
家族だけでしか使わないような言葉と、
SNS上で飛び交う言葉、
親戚の付き合いで発する言葉、
そのどれもがほんとうでありながら切実さにはグラデーションがあって
それでも尚、どれもほんとうのままであり、そのためにうーちゃんは熊野詣をする。
だってこんなに八方塞がりでは神仏に祈るしかない。

祈りは届くかどうか、そうなる前に話を終わらせてしまうのも
いずれのほんとうも受け入れざるをえない諦念と覚悟を感じさせる。
その力強さが女性性を強く打ち出していながらも
人と人の摩擦から生じる熱の普遍性の方に目を向かせている。

解説も町田康でなるほど、好きそうな感じである。

おそらく誰にもあるでしょう、つけられた傷を何度も自分でなぞることでより深く傷つけてしまい、自分ではもうどうにものがれ難い溝をつくってしまうということが、そいしてその溝に針を落としてひきずりだされる一つの音楽を繰り返し聴いては自分のために泣いているということが。(p.40)

宇佐見はこの声をよく聴いた。
それはそのまま、ひとりのために泣いているひとがひとりではないことを示す行為でもある。