ヨモジジ(freaks ver.)

本と雑貨と音楽と、街歩きが好きなオッサン。1981年生まれの珈琲難民が好き放題に語る。レビューのためのブログ。

「自省録」著:マルクス・アウレーリウス 訳:神谷美恵子

ローマの皇帝だった人のものだということですが、 読むと思いのほか自己啓発本じみている。日々の振返りや本を読んで感じたことや気に入った文章などが 細かい断章となって構成されていてSNSがあったら どっぷり浸かってそうな皇帝ですね。言葉として表れて…

「迫害された移民の歴史」著:玉木俊明

「迫害された移民の経済史」ではあるが、 重点は迫害ではなく経済にあって、 迫害されながらも、なおそれによって離散していることを 強みとして生き抜いてきた人々の一つの歴史である。 ディアスポラというと、ユダヤ系のイメージが強く 本書でもその系統で…

「かか」著:宇佐見りん

「推し、燃ゆ」で有名かと思いますが、 この人のものはこれが初めて。思ったよりもナラティブを意識した書きぶりで それがフォークロアでありながらも現代的であるようにして書き上げていて こんなに腕力のあるタイプの書き手だとは思わなかった。一人称の語…

「ギルガメシュ叙事詩」訳:矢島文夫

ギルガメシュは今から4000年以上昔のメソポタミアで栄えた シュメールの英雄である。とても古いこの物語が読めるのは石板が出土したからではあるが、 脱落部分も多数あり、それがかえって研究や発掘が待たれているようでワクワクもするし、 複数の箇所で文章…

「未来をつくる言葉」著:ドミニク・チェン

軽やかなエッセイでありながら真摯に問いと向き合ってきた軌跡が感じられるよい作品だ。Webサービスやアートとしてのインスタレーションなど 様々な事績が語られているけれども、どれもコミュニケーションのデザインにかかわるものであり、 タイトルに「言葉…

「蛇口」著:シルビナ・オカンポ 訳:松本健二

アルゼンチンの女性作家による短編集。 南米の小説に期待されるようなマジカルな展開もあるんだけれど、 この人の特徴は、何か淡々と超常的な展開を受け入れているところにある気がする。物語としても、欠けたものを取り戻す話ではなく、 もう戻らないことを…

「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」編:玄田有史

玄田さんはあくまで編者としての立ち位置だが、 20人以上の報告をまとめて総括もしてくれていて 投げっぱなしのアンソロジーにしてないのがありがたい。それぞれに重なる領域もありつつも、 色々な切り口がこの問題に関わっていることが分かる。業界における…

「猫を抱いて象と泳ぐ」著:小川洋子

ちょうどナボコフの「ルージーン・ディフェンス」を読んでいるところであったので、 チェスの話というところに興味が湧いて手にとった。どちらもチェスをモチーフにした 素晴らしい作品だということは言うまでもないが、簡単に比べてみると ナボコフは幻惑的…

「経営危機時の会計処理 レオパレス21は難局をどう乗り越えたか」著:日野原克巳

レオパレスは今も全国に住宅賃貸のネットワークを展開しているが 2018年に施工内容についての不備が判明してその修繕や補償などをしなければいけない状況に追い込まれた。 それは単発のものではなく、調査をするにつれ、類似の事例も発覚するなど かなりの負…

「シン・物流革命」著:鈴木邦成功、中村康久

物流はBtoB、BtoCどちらでもその重要さ、 存在感のあるテーマになってると思うので読んでみた。IOTの浸透によってタグやセンサーが有効活用され、 倉庫の中がそれ自体で考えるシステムとして再構築されているという話は 非常に興味深い。また、ロジスティク…

「祈れ、最後まで サギサワ麻雀」著:鷺沢萌

少年たちの駆け抜けるような青春を 繊細に書き綴ってきたイメージのある鷺沢が近代麻雀で連載していたとは知らなかった。ここにいる鷺沢は豪快で、酒を飲み、煙草をふかして 大きく勝ちを狙う勝負師(そして負ける)の姿であった。この勝ちを狙うというのは…

「リベラルとは何か」著:田中拓道

現代においてリベラリズムは政治的に苦境に立たされていることは間違いなく これは日本だけでなく世界的な潮流であることが、 右派ポピュリズムの各地での湧き上がりを見れば分かる。本書はここにリベラルの成り立ちから確認しつつ、 いかにしてこの隘路に追…

「ミャンマー現代史」著:中西嘉宏

いまや、ウクライナの方が耳目を集めてしまっているが ミャンマーは2021年2月に非常事態宣言を出した 軍事クーデターのあとそのままである。今朝の朝刊では総選挙も回避して現状の暫定的な軍事管理政権が続きそうだという見通しをみた。 予断を許さない状況…

「酔っ払いの歴史」著:マーク・フォーサイズ 訳:篠儀直子

人の振る舞いほど興味深いものはない。それが酔っ払ってるならなおさら。 絡まれずに観察だけできるのはこちらの本です。酒の歴史でなくて酔っ払う人の歴史というのは面白い着眼点。 確かに、サッカーボールの歴史も興味深いが、それにも増してプレーの方が…

「家守奇譚」著:梨木香歩

和風幻想譚であるけれども、擬古文的なものに囚われずに 素直に書かれていてとても好感が持てた。亡くなった親友の家に誰も住まなくなるので 家に住んで風を通してほしいというような具合で主人公はその家に住まう。主人公はその親友の気配とともに暮らす と…

「文字移植」著:多和田葉子

これは翻訳についての物語であるとともに 男性ではない女性についての物語である。もしくは、距離についてであり、渡ることについてである。島に行って翻訳の仕事をする主人公は 優雅な身の上と言っても差し支えはない。 ないけれども、とても憂鬱である。翻…

「ルージーン・ディフェンス/密偵」著:ナボコフ 訳:杉本一直、秋草俊一郎

ナボコフコレクションの第二巻となる本書はチェスの名人の話と、 死んでる男が視点人物となる不思議な話の二篇が載っている。二つはどちらも特別な企みを持って作られており 才気走るナボコフの筆力の高さに唸らされてしまう。正直、僕には後半の密偵はキツ…

「ギャンブラーが多すぎる」著:ドナルド・E・ウェストレイク 訳:木村二郎

面白かった。 NYのギャングたちが出てくるお話で 被害者もまぁ、出るんだけど、主人公のキャラクターがなんだか 緊張感のないやつでそれがなんだか愉快な感じになってる。主人公はギャンブルが大好きで、ノミ屋を通して買った馬券が当たったもんで それの払…

「ひとり暮らし」著:谷川俊太郎

言わずと知れた谷川俊太郎であるが、彼の詩作はとても軽やかで なんだかとらえどころがないように感じられたりもする。そんな著者の生活を垣間見せてくれるエッセイである。 詩人としての言葉に対する姿勢の向け方もさることながら 感覚に対してできるだけ明…

「武器を持たないチョウの戦い方」著:竹内剛

チョウのフィールドワークの報告でなかなか面白かった。 ただ、いきなり軽くネタバレしますけど、 タイトルはミスリードを誘ってて文字通りのことを期待すると騙された感があります。 (まぁ、帯には書いてあるんですが)何がミスリードか、「戦い方」なんて…

「百年の散歩」著:多和田葉子

出羽守なんて言葉が蔓延ったのはいつ頃からだろうか。 〜ではこうだ、のように言うから「ではのかみ」とのことで ベルリンに住む日本人なんてその典型のように見える。ただこの小説では何かを引き比べるというような地平に立ち並ぶことはない。差異について…

「日本の税金」第3版 著:三木義一

日本の税の仕組みをざっくりとまとめて見るにはちょうどいい本だ。誰のための税金というところからはじまり 所得税、法人税、消費税とメジャーなところだけでなく 相続税、酒税等物品税、地方税もふれていく。とかく日本は源泉所得税と年末調整で大半の人が…

「財務会計講義」著:桜井久勝

金融クラスタでお薦めしてる人がいたので読んでみた。理論的な面でかなり包括的に解説してもらえる。専門書としての難しさはあるけれど、 ややこしいところはその都度、腑分けした表が出たり、 仕訳の参考例が載っていたり、丁寧なつくりになっていると思い…

「「空腹」こそ最強のクスリ」著:青木厚 

前に読んだ16時間あけなさいと似たような文脈の本ですね。 同じ内容でも実践上の書き方に違いがあるかもしれないので。前のものよりも全体的に脅し的な内容が多く、 はぁそうですかというところ。糖質制限と比較した優位性にも簡単に触れたりしているのはあ…

「色彩の手帳」著:加藤幸枝

都市計画を与件として個別の建築の色合いを考えるときの 実践的なヒントが書かれている。実務的なトーンの本ではあるけれど 写真はどれもフルカラーで(当たり前か)綺麗ですね。実直な選び方が中心ではあるものの その中でもなぜその色を選ぶのか、責任をも…

「財務3表一体理解法」著:国貞克則

財務3表とは「貸借対照表」「損益計算書」に加えて 「キャッシュフロー計算書」まで合わせた3つの会計書類のことだ。本書はそれらの数字のつながりと 表の内容の意味をとても丁寧に教えてくれる。自分としては食い足りない感じではあるけれど 人に説明する時…

「地政学入門」著:佐藤優

2015年から2016年にかけて行った連続講義(市民講座的なものか)を元にした講義録である。ということはおおよそ想像がつくと思いますが 広く浅いかんじです。カバー裏に「帝国化する時代を読み解く鍵となる政治理論、 そのエッセンスを具体例を基に解説する…

「ホテル」著:エリザベス・ボウエン 訳:太田良子

これは装丁で買ったと言って差し支えない本で 中身も非常に香り高いような気がしたんだけれど、 個人的にはうまく読めなかった。イタリアのホテルにバカンスに来た人々の 交差する人間模様と行ったところ。僕が恋愛のさやあて的なものに興味が持ちにくいうえ…

「正解は一つじゃない 子育てする動物たち」齋藤慈子ほか編

動物学者たちによる、それぞれの動物の子育てを紹介する本。 もっとも小さいものはアリから、大きなものはゴリラまで19もの種類の生き物たちが出てくる。よい子育てについて人の親は悩むが 「よい」とは何かを相対化するための試みでもある。当然、動物種に…

「トーラーの名において」著:ヤコヴ・M・ラブキン 訳:菅野賢治

副題は「シオニズムに対するユダヤ教の抵抗の歴史」である。イスラエルは非常に問題を孕んだ国家として立ち現れている。 その際にユダヤ教とイスラム教の、つまり宗教と宗教の問題として外部からは見えてしまう。 しかし本書はイスラエルという国家がユダヤ…