ヨモジジ(freaks ver.)

本と雑貨と音楽と、街歩きが好きなオッサン。1981年生まれの珈琲難民が好き放題に語る。レビューのためのブログ。

「ギルガメシュ叙事詩」訳:矢島文夫

ギルガメシュは今から4000年以上昔のメソポタミアで栄えた
シュメールの英雄である。

とても古いこの物語が読めるのは石板が出土したからではあるが、
落部分も多数あり、それがかえって研究や発掘が待たれているようでワクワクもするし、
複数の箇所で文章の推定もなされているが、そういった研究の跡にすごいものだと驚きもする。

さて、神話というのは現代の小説などとは違い
心理描写などはほとんどなく、
イベントと人物の名指しが中心となることが多い。
これは内面というものが近代に発見されたものであるという見方もあるし、
むしろ外部に現れている英雄的、あるいは神話的な縁起を呼び出すことに
着眼点があるからと考えてもいいだろう。

本作もそのような形で非常にサクサクとした展開でとても楽しい。
登場人物はウルクの王でもある「ギルガメシュ」と
そのライバルとして神に創られた野人「エンキドゥ」この2人が中心となって進む。

関係ないとは思うけれども、RRRを観たこともあって
ラーマとビームの関係だと思ってずっと読んでました。
出会った最初はお互いの力比べのような争いがあって、
互いを認め合うようになってから、森の化け物退治にいったり、
わがままな神の試練に対抗したり、かなりエンターテイメントな物語だったので
最後までそのイメージでいけたような気がする。

そして、シンプルな作りの叙事詩であるからこそ、
人間に対する洞察、残そうとした卓見のようなものも
すっきりと入ってくる。

最後に、このちくま学芸文庫版は解説も充実しており、
前提知識がなくても楽しむことができた。

ギルガメシュが冠りものを身につけると
ギルガメシュの立派さに大女神イシュタルは目を上げた
「来てください、ギルガメシュよ、私の夫になってください(p.77)

唐突な求婚。
ギルガメシュギルガメシュ
「え、あなたの今までの恋人たちはひどい捨てられ方してるって
聞いてるんで勘弁してください」とさっくり拒否。
ここからさらにイシュタルが怒るまでテンポが良すぎてコント感すらある。

神話は神を呼び出すことにより神ではない人間の輪郭を際立たせるところがあるように
古代の文章は現代の文章との差異をあらためて際立たせるものもあり、
欠落などで読みにくい面もあるが、面白い刺激のある読書になると思う。