ヨモジジ(freaks ver.)

本と雑貨と音楽と、街歩きが好きなオッサン。1981年生まれの珈琲難民が好き放題に語る。レビューのためのブログ。

2021-01-01から1年間の記事一覧

『ヒンドゥー教10講』著:赤松明彦

ヒンドゥー教はインドの宗教だということは知っていても それ以上のことはあまりよく分からない。この本を読んでみてそれが分かるかというと さらに混迷を深めてしまう。何故なら系統だった教義であるよりも先に民衆の中にあった伝承や習慣が イスラムなど他…

『マンゴー通り、ときどきさよなら』著:サンドラ・シスネロス 訳:くぼたのぞみ

移民の集まるアメリカの街。 いわゆる貧困の問題や、その中でもさらに皺寄せが来てしまう女性の問題、 ということに触れつつも重く地面に縛りつけられるよりは スキップしながら通りを走り抜けるような軽やかさがある。これはこれである種のステレオタイプの…

『突然ノックの音が』著:エトガル・ケレット 訳:母袋夏生

ショートショート、と言えば星新一をどうしても引き合いに出してしまう。星新一は清潔で、ユニバーサルで、 近代の夢をそのままユーモアに包んだように感じるのだが、 それに比べるととてもこれは臭う。ここには人が確かに生活している世界があって 「エヌ氏…

『椿井文書ーー日本最大級の偽文書』著:馬部隆弘

どのように偽文書が現れて、あまつさえ普及してしまうのか。椿井文書とは椿井政隆(1770ー1837)が中世のものと偽って作った資料群で 家系図や地図そのほか多様な種類のものがある。こうしたものが作成された背景として 地域ごとの政治的な綱引きの中で、 そ…

『<私>だけの神』著:ウルリッヒ・ベック 訳:鈴木直

グローバルアクターとしての宗教が どのような変容をしていくかについての展望と期待が描かれている。宗教は宗教だけで成り立つわけではなく、 社会的な基盤との関わりの中で信仰の表れは変わってくる。近代化の中で宗教は世俗化の傾向を見せているようでは…

『ルバーイヤート』著:オマル・ハイヤーム 訳:岡田恵美子

アラブ・イスラーム世界の四行詩である。詩に現われる言葉は 抽象度が高く文化的な共有意識を利用して語られることが多い。 そうなると文化的距離が離れていると理解しにくくなるわけだが その距離を埋めるために各章立てに入る前にエッセイのような簡単な紹…

『仏教の大意』著:鈴木大拙

短い本ではありますが、なんというか いきなり核心に到達しようとする筆致で読み出がある。 大意を入門書的な意味で捉えるとかなり裏切られてしまう。もっとも言っている項目を数えればそれほど多くはない。 たとえばA=notA=A という不思議な等式を しかし…

『シン・エヴァンゲリオン』庵野秀明

特に熱心ではないけれど、 一応新劇場版は全部見てきたので世代の嗜みとして感想を言い置いておこうと思う。ネタバレは特に気にしないのでそのつもりで。序盤の戦闘シーンはQでもあったけど 導入のために作成された派手な立ち回り。シューティングゲームの趣…

『思想をつむぐ人たち』著:鶴見俊輔 編:黒川創

1922年生まれの知識人である。 戦争をしっかりと焼きつけた世代だ。しかし、そのために考えた人ではないと思う。 もっと柔らかく、生き残った人々の、 生き続ける人々と共に考えようとした人だろう。この本には多数の人物評が記されている。 洋の東西を問わ…

『名指しと必然性』著:ソールA.クリプキ 訳:八木沢敬、野家啓一

同一性について考える手がかりがあると思って、読んでいったが 固有名の指示とは何によってその固有性が担保されているのか、という問いだけではなく 一般的な指示語についても語るし、指示語との必然的なつながりと アプリオリな繋がりなど思った以上に丁寧…

『秋本治の仕事術』著:秋元秋本治

言わずと知れた「こち亀」の作者の本である。長寿連載というだけでも十分に偉大なことだけれど、その間ただの一度も落とさないというのは やはり並大抵のことではない。とはいえ、ビジネス本として見れば取り立てて大きなことはないと思う。 それは要するに…

『大人も驚く「夏休み子ども科学相談」』編著:NHKラジオセンター「夏休み子ども科学電話相談」

科学相談の電話は聞いたことがあるけれど、 電話をかけたことはない。聞きたいことはあるような気がするけど 電話をかけてまで知りたいことがあるような気がしなかった。 でも、きっと興味深く聞いてたと思う。こういうところで聞く子どもたちは大抵身近な大…

『ファウスト 悲劇第一部』著:ゲーテ 訳:手塚富雄

ファウストはゲーテが最初に考えた話ではないらしいと ベンヤミンの本で知ってがぜん興味が出てきたのであった。元にあった話を肉付けすることで名声を得るのは 本人の手柄がどこにあるか分からないと難しいだろうと思えるからだ。果たして分厚い二部のうち…

『インド夜想曲』著:アントニオ・タブッキ 訳:須賀敦子

インドでの抒情的なエッセイのようなタイトルであるが 非常に企みの上手い作家らしく、あれよあれよという間に 抜き差しならない場所に連れ込まれてしまう。それにしても 「抜粋集(アンソロジー)には御用心」とか言われるし、 そもそも訳者の須賀敦子が解…