2023-01-01から1年間の記事一覧
ローマの皇帝だった人のものだということですが、 読むと思いのほか自己啓発本じみている。日々の振返りや本を読んで感じたことや気に入った文章などが 細かい断章となって構成されていてSNSがあったら どっぷり浸かってそうな皇帝ですね。言葉として表れて…
「迫害された移民の経済史」ではあるが、 重点は迫害ではなく経済にあって、 迫害されながらも、なおそれによって離散していることを 強みとして生き抜いてきた人々の一つの歴史である。 ディアスポラというと、ユダヤ系のイメージが強く 本書でもその系統で…
「推し、燃ゆ」で有名かと思いますが、 この人のものはこれが初めて。思ったよりもナラティブを意識した書きぶりで それがフォークロアでありながらも現代的であるようにして書き上げていて こんなに腕力のあるタイプの書き手だとは思わなかった。一人称の語…
ギルガメシュは今から4000年以上昔のメソポタミアで栄えた シュメールの英雄である。とても古いこの物語が読めるのは石板が出土したからではあるが、 脱落部分も多数あり、それがかえって研究や発掘が待たれているようでワクワクもするし、 複数の箇所で文章…
軽やかなエッセイでありながら真摯に問いと向き合ってきた軌跡が感じられるよい作品だ。Webサービスやアートとしてのインスタレーションなど 様々な事績が語られているけれども、どれもコミュニケーションのデザインにかかわるものであり、 タイトルに「言葉…
アルゼンチンの女性作家による短編集。 南米の小説に期待されるようなマジカルな展開もあるんだけれど、 この人の特徴は、何か淡々と超常的な展開を受け入れているところにある気がする。物語としても、欠けたものを取り戻す話ではなく、 もう戻らないことを…
玄田さんはあくまで編者としての立ち位置だが、 20人以上の報告をまとめて総括もしてくれていて 投げっぱなしのアンソロジーにしてないのがありがたい。それぞれに重なる領域もありつつも、 色々な切り口がこの問題に関わっていることが分かる。業界における…
ちょうどナボコフの「ルージーン・ディフェンス」を読んでいるところであったので、 チェスの話というところに興味が湧いて手にとった。どちらもチェスをモチーフにした 素晴らしい作品だということは言うまでもないが、簡単に比べてみると ナボコフは幻惑的…
レオパレスは今も全国に住宅賃貸のネットワークを展開しているが 2018年に施工内容についての不備が判明してその修繕や補償などをしなければいけない状況に追い込まれた。 それは単発のものではなく、調査をするにつれ、類似の事例も発覚するなど かなりの負…
物流はBtoB、BtoCどちらでもその重要さ、 存在感のあるテーマになってると思うので読んでみた。IOTの浸透によってタグやセンサーが有効活用され、 倉庫の中がそれ自体で考えるシステムとして再構築されているという話は 非常に興味深い。また、ロジスティク…
少年たちの駆け抜けるような青春を 繊細に書き綴ってきたイメージのある鷺沢が近代麻雀で連載していたとは知らなかった。ここにいる鷺沢は豪快で、酒を飲み、煙草をふかして 大きく勝ちを狙う勝負師(そして負ける)の姿であった。この勝ちを狙うというのは…
現代においてリベラリズムは政治的に苦境に立たされていることは間違いなく これは日本だけでなく世界的な潮流であることが、 右派ポピュリズムの各地での湧き上がりを見れば分かる。本書はここにリベラルの成り立ちから確認しつつ、 いかにしてこの隘路に追…
いまや、ウクライナの方が耳目を集めてしまっているが ミャンマーは2021年2月に非常事態宣言を出した 軍事クーデターのあとそのままである。今朝の朝刊では総選挙も回避して現状の暫定的な軍事管理政権が続きそうだという見通しをみた。 予断を許さない状況…
人の振る舞いほど興味深いものはない。それが酔っ払ってるならなおさら。 絡まれずに観察だけできるのはこちらの本です。酒の歴史でなくて酔っ払う人の歴史というのは面白い着眼点。 確かに、サッカーボールの歴史も興味深いが、それにも増してプレーの方が…
和風幻想譚であるけれども、擬古文的なものに囚われずに 素直に書かれていてとても好感が持てた。亡くなった親友の家に誰も住まなくなるので 家に住んで風を通してほしいというような具合で主人公はその家に住まう。主人公はその親友の気配とともに暮らす と…
これは翻訳についての物語であるとともに 男性ではない女性についての物語である。もしくは、距離についてであり、渡ることについてである。島に行って翻訳の仕事をする主人公は 優雅な身の上と言っても差し支えはない。 ないけれども、とても憂鬱である。翻…
ナボコフコレクションの第二巻となる本書はチェスの名人の話と、 死んでる男が視点人物となる不思議な話の二篇が載っている。二つはどちらも特別な企みを持って作られており 才気走るナボコフの筆力の高さに唸らされてしまう。正直、僕には後半の密偵はキツ…