ヨモジジ(freaks ver.)

本と雑貨と音楽と、街歩きが好きなオッサン。1981年生まれの珈琲難民が好き放題に語る。レビューのためのブログ。

2020-01-01から1年間の記事一覧

『カミと神』著:岩田慶治

タイトルになっている対比は 学術的な対象としてのカミと現に信じられている神 または、体系立てられる前のカミと教理とともにある神 2つの対比がイメージされているように思う。帯にも「原初のカミをたずね、カミと出逢うために!」とある。 この本に書かれ…

『不在の騎士』著:イタロ・カルヴィーノ 訳:米川良夫

中身のない鎧が一人で勝手に動いてたらホラーなんだろうけど それがちょっと間抜けなくらい生真面目で、 手のかかる道連れに頭を悩ますとか、 カルヴィーノらしいユーモアのある楽しい小説でした。とはいえ話の全体の作りはなかなか込み入っていて ユーモア…

『月次決算書の見方・説明の仕方』著:和田正次

実務者向けのと言うことで、中級者レベルの本ではあると思いますが 必要以上に難しくはしてるわけではないので、ある程度基礎的な知識があれば読めるかなと思います。そして毎月の月次決算からわかることと、 キーになる指標の解説はしっかりしていると思い…

『七つの夜』著:J・L・ボルヘス 訳:野谷文昭

いかにもロマンチックなタイトルだ。 夢十夜とか、千一夜物語 夜の数を数えて一体どうするのだろう。数えることで何かが変わることはないが、 しかし、人は数えてしまうのだ。 例えば夜が明けた時にかつて蒔いた種が芽吹いていないかと期待しながら。本書は…

『サル学の現在』著:立花隆

人と猿の違いはどのあたりにあるのかということは 「人間の条件」についての思索を行うことに近い。1991年に出版された本なので、 「現在」とは言っても差し引かなくてはいけない部分が多いが 当時の先端の研究員たちに深く広く話を聞いていく。 教授レベル…

『家畜化という進化』著:リチャード・C・フランシス 訳:西尾香苗

人間は動物や植物を自分たちの都合の良いように変えてきた。 今ではどれも当たり前のように見える動物たちの生態そのものが 自然なものではなく、人が関わってきた中で現れたものなのだと気付かされる。もちろんこの本はそこに善悪を見ているわけではない。 …

『武器としての交渉思考』著:瀧本哲史

ツールという言い方をせずに武器というのは まったくもって穏当ではない。 けれども、そうしたものを探している人に配りたいからこそこの本のタイトルであろう。しかし、交渉は明らかに戦いではない。 戦いは敵に敗北を突きつけることだが、 交渉はそれ以外…

『アイデンティティが人を殺す』著:アミン・マアルーフ 訳:小野正嗣

アイデンティティという言葉が市民権を得たのはさほど古いものではないでしょう。 一方で、すでに古くなっているような気もします。今ならダイバーシティと呼ぶような気がします。 私のアイデンティティの問題ではないという立ち位置を取ることで 問題の先鋭…

『イスラエル』著:臼杵 陽

イスラエルはパレスチナ問題とあわせて語られる事が多いと思うが 本書は新書というスペースの中で、イスラエルという国そのものを なるべく大枠から伝えようとしてくれている。そもそもの成立の仕方自体が 特殊な国だという気持ちで見ていると 特殊な場所の…

『冷血』著:トルーマン・カポーティ 訳:佐々田雅子

書名は聞いたことがあってもよく分からず読んでみた。ある事件のノンフィクションということだが、 文体はとても小説的でとてもよく練り上げられている。具体的な叙述が多いのはそれだけ具体的な内容にあたっているからだが、 主観的であるような言葉が露わ…

『鬼速PDCA』著:冨田和成

PDCAをきっちりやるには継続性とテンポが両立しないといけない。 継続できなければ、フィードバックのないやりっ放しになるし、 テンポが遅すぎれば、チェック機能があっても手遅れ状態からしかできない。本書はその2つの点をきっちり抑えて どのように整備…

『子どものための文化史』著:W.ベンヤミン 訳:小野寺昭次郎、野村修

ラジオ放送用の原稿として書かれた本書の断章たちは 普段の彼の占星術士のような予感に満ちた文章とは趣が違うけれども 優雅にエピソードを渡っていく手つきは、どれも惚れ惚れとする。ドイツ、というよりはベルリンについて語られるその空気は 日本ではなく…

『ワールド・カフェをやろう!』著:香取一昭、大川恒

ワールド・カフェというのは 多人数型のワークショップに近いミーティング形式のことです。ミーティングの参加人数が多い場合に 意見が偏ってしまったり、 参加者のコミットメントが下がることに 課題感を感じることがあると思います。ワールド・カフェは テ…

『春宵十話』著:岡潔

数学者の書く数学の本は読めないのだから こういった本を読むことになる。だいぶ戦前の道徳的すぎるところが 鼻についてしまうけれど、 真理に向かおうとする時の進み方は特徴的で面白い。コツコツした積み上げよりも ハーモニーに近い捉え方で証明を得よう…

『アタリ文明論講義』著:ジャック・アタリ 訳:林昌宏

ちょっとタイトルとの齟齬がよろしくない。文明論についての話ではなくて、 未来予測の意義と方法論を説くものだと読んだ。そういうものとして読めば別に良いのだけれど 文明についての、ここの評価はないし、 未来予測を使って文明を考えるというようなこと…

『1兆ドルコーチ』著:エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アランイーグル 訳:櫻井祐子

ビジネス書と評伝のあいのこのような本だ。しかし、この書き方になったのは このビルという「コーチ」が行動そのものよりも 人格に特徴があるということを意識してのことかもしれない。それは余計に原理原則というような 無機質なものに抽出することもできた…

『モードの迷宮』著:鷲田清一

これはファッション誌「マリ・クレール」に掲載されたコラムを集めた小論集だが、 そのスタイルは襞の入り組んだ陰影に着目する彼にはちょうど良いかもしれない。境界は動きとともにある。 完全に固定化された境界はただの図像であり、写真だ。 哲学者の鷲田…

『技術の街道をゆく』著:畑村洋太郎

書名のとおり、技術の現場を巡りながら 技術がいかにして受け継がれ、かつ変容してきたかということを見せてくれるエッセイだ。ただ、正直に言うと話のネタはそれぞれ面白いのだが 本の全体の方向性はあまりうまく作れなかったのではないだろうか。 おそらく…

『ケンブリッジ・サーカス』著:柴田元幸

言わずと知れた英米文学翻訳者の柴田さんである。 旅のエッセイなどと帯に書いてあるけれど、しかし旅にしては未知のものが少なすぎる。 これは彼の仕事場の通勤物語だろう。とはいえ、人の仕事場はいつも企業秘密とやらで なかなか見えるものではないから、…

「ヴォイニッチホテル」著:道満晴明

短編を主戦場とする著者の珍しい3巻にわたる長編。設定の盛り込み密度は常にマシマシ。 包むつもりもない風呂敷で 人が楽しくホラ話をする感覚だと、こんなものかもしれない。 (チャック=ノリスの挿話なんて特に必要だったろうか?)孤島にあるホテルを舞…

「ねじの回転」著:ヘンリー・ジェイムス 訳:蕗沢忠枝

ちょっとしたホラー小説というところなんだけれど、 まったくうまく噛み合わなかった。その「恐ろしいもの」を直接に描かないことで恐怖を与えるという書き振りなのはわかる。 しかし、書かれていないものの恐怖はリアクションだけで伝わるかというとそうで…

『断片的なものの社会学』著:岸政彦

単純に美しいエッセイ集として読んでも差し支えない。 ここには破調があるけれど、それらは選ばれており、 選ぶことは美に接近することだ。写真は撮影技術以上に編集力がものをいうと僕は思っている。 どのように並べるか、引き延ばすのか、切り取るのか。 …

『交渉術の基本』著:グロービズ

交渉というとずる賢く立ち回るような印象もあるが 本書は交渉をもっとよいものとしてとらえている。そもそも交渉が発生するのは情報が非対称である時でしかない。 つまり、互いに相手がどういう状況で何を求めているかの情報が完全に共有されている時、 それ…

『西欧の東』著:ミロスラフ・ペンコフ 訳:藤井光

原題は "East of the West"という シンプルに人を惑わせるような語彙だ。東欧の作家には苦しい状況を反映したものが多いが、 彼は確かにそれが反映されたうえで、 もう一歩抽象化されたモチーフを扱っているように思う。多様なパーソナリティ、複数のオリジ…

『異文化理解力』著:エリン・メイヤー 訳:樋口武志

副題に「ビジネスパーソン必須の教養」とあるけれど、 これの意味するところはこれが実用書であるということだ。なので、繊細な各文化の記述を期待してはいけない。 あくまで、どのような形でギャップに足をとられることがありうるか、 ということをまとめた…

『パタゴニア』著:ブルース・チャトウィン 訳:芹沢 真理子

祖母の家に飾られた恐竜の皮から話ははじまる。それがあったと言われる南米のパタゴニアへと旅は進んでいくのだが、 なぜか話はすぐにそれていく。 無数のならずものたちが大西洋を渡り、南米で暴れまわっていた。足跡は重ね合わされて、地理と時代は互いに…

『重力と恩寵』著:シモーヌ・ヴェイユ 訳:田辺保

重力とは悪しき惰性のことであり、 恩寵は神から求められることなく与えられる奇跡のことだ。思想家というよりは はっきりとキリスト教に近い神学の特性を持っている。 しかし、彼女はキリスト教者ではない。 ユダヤ人の左派闘士であるという肩書すらついて…

『メルケルと右傾化するドイツ』著:三好範英

メルケルは確かに希有な人物だ。 しかし、歴史は適した人間を連れてくるのであって、 メルケルでなくても、同じような人物がドイツに現れたに違いない。筆者の筆致も彼女の特性を抑制的に描いている。ここでバランスをとるように現れているのは 「右傾化する…

『トリエステの亡霊』著:ジョーゼフ・ケアリー 訳:鈴木昭裕

須賀敦子の「トリエステの坂道」以外にこの場所について何も知らなかった。 須賀の作品では詩人のサーバがいた、というくらいしか覚えがなかったのだが、 「サーバ、ジョイス、ズヴェーヴォ」というサブタイトルの並びでなんとなく手に取った。今なら聖地巡…

『会議 〜 チームで考える「アイデア会議」 〜』著:加藤昌治

アイデア出し会議というのは定型化しにくいものであり、 それゆえに価値の高い工程になりやすい。著者は博報堂の社員として実際にこうしたアイデアを手掛けていた人で ここに書かれているものはどれも分かりやすく 行動に移しやすいものが多く選ばれている。…