『西欧の東』著:ミロスラフ・ペンコフ 訳:藤井光
原題は "East of the West"という
シンプルに人を惑わせるような語彙だ。
東欧の作家には苦しい状況を反映したものが多いが、
彼は確かにそれが反映されたうえで、
もう一歩抽象化されたモチーフを扱っているように思う。
多様なパーソナリティ、複数のオリジン、
こういった複層的なあり方はありふれたものだ。
けれども、そのどれでも選べるということは稀である。
最悪の場合、複層的であるがために「おまえは何者でもない」とされることもある。
ここまでは現状認識の話だ。
ペンコフのモチーフは、その絶望を描いているのではなくて
何者かではなかった時の、そこに残る希望に賭け金を置いている。
あまり楽しい話はないかもしれない。
それでも読後感は息苦しくはない。
そのようにして受け入れてもよい、という人生への態度がここに描かれている。
- 作者:ミロスラフ・ペンコフ
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2018/10/26
- メディア: 単行本
「減量のための食事法とか男女関係の相談には少しばかり飽きてきてな。デートの三つの必勝法、細身になるための三つのステップ。なあ孫よ、今じゃ世の中は何でも三つの簡単なステップになっているな」
もうレーニンは読んでないってことかい?と僕は尋ねた。(p.92)
もちろん、詐欺商品だった。でも詐欺じゃないものなんてあるだろうか。僕は「今すぐ購入」をクリックして、注文を確定した。共産主義のカモ一九四四さん、おめでとうございます、と確認メッセージが出てきた。あなたはレーニンを購入しました。(p.102-103)