「ホテル」著:エリザベス・ボウエン 訳:太田良子
これは装丁で買ったと言って差し支えない本で
中身も非常に香り高いような気がしたんだけれど、
個人的にはうまく読めなかった。
イタリアのホテルにバカンスに来た人々の
交差する人間模様と行ったところ。
僕が恋愛のさやあて的なものに興味が持ちにくいうえに、
上流階級らしいっちゃらしいんだけど、ほのめかしの多用で
登場人物の関係が分かったかと思ったら肩すかされてしまったりしてしまう。
とはいえ、訳者あとがきを読むとある程度納得のいくものであった。
これが書かれた1927年というのは戦間期であり、
(第一次世界大戦が1914ー1918、第二次世界大戦が1939ー1945)
何か厭世的なところや陰鬱な空気が晴れないところはむしろ
そのような空気を意図的に描いているということだろう。
だから、恋愛ドラマは補助線として引かれているだけで
この小説はそのために描かれたわけではない。
そうでもなければ、どれもこれもドラマが起こる直前で
ご破産になってしまうような作りにはしないだろう。
実際、バカンスのホテルという設定も
なにか宙ぶらりんになっていることを露わにしている。
とはいえ、本当に読めなかったので
ちょっと久しぶりに出た登場人物なんかがいると
毎回巻頭に戻って「誰?」とか確認しながらの読書でありました。
シドニーは、おそらく二十二歳で、明るい顔色と整った目鼻立ちをしており、表情が豊か過ぎて顔のしわがしょっちゅう伸びたりちぢんだりしている。言われたりほのめかされたりすることに大袈裟に反応し、眉が悲劇的に吊り上がったり、瞳を凝らしたり、口元をすぼめると一本の線になり、それは大人の口元になる前触れだった。(p.22-23)
ヒロインは快活な女性として描かれている。
「あなたは人を惹きつけられるわ」ミセス・カーが言った。「でも、あえて言えば、楽しませたい欲望を理解しない仲間には無関心なのが、実際には一番の安全策ねーーあちらに行ってテニスしないの?」(p.23)
しかし、どうもスッキリとしない大人たちの物言いがかぶさってくる。
思えばこの辺のところで主題ははっきりしていたんだろう。