ヨモジジ(freaks ver.)

本と雑貨と音楽と、街歩きが好きなオッサン。1981年生まれの珈琲難民が好き放題に語る。レビューのためのブログ。

「武器を持たないチョウの戦い方」著:竹内剛

チョウのフィールドワークの報告でなかなか面白かった。
ただ、いきなり軽くネタバレしますけど、
タイトルはミスリードを誘ってて文字通りのことを期待すると騙された感があります。
(まぁ、帯には書いてあるんですが)

何がミスリードか、「戦い方」なんて書いてるけど
そもそも「戦ってない」んじゃないかという研究報告なんです。

オスとオスがくるくるナワバリで飛び回るのは戦いではなく
ただ単に知覚能力の貧弱さからメスであるかどうかの
判別に手間取ってるだけではないかということですね。

戦ってないということで裏切られた感はあるものの
動物を人間と同じ知覚世界で判断しない方がいいんじゃない、というのは
なるほど、という面白さがある。

これは人間同士でも同じですね。
似たような振る舞いをしていても内実の意味合いが全く異なるということはある。

若手の研究者として苦労をしたことも率直に書いていて
その辺の書き振りも楽しみがある。(ご本人は大変だろうけども)

写真や図も多く分かりやすさに配慮があり
具体的なフィールドワークの方法にも触れられていて
こういう分野に興味のある高校生あたりが読むとちょうど良さそうである。

いつもの山道を歩いていると突然犬に吠えたてられた。山道の先を見ると三頭の犬がこちらを睨んでいる。遊びに来たのであれば、無用なリスクは避けてひとまず撤退するところである。しかし、二神山は優れた調査地である。ここで怖がって引き返すと研究にならない。(中略)こういうトラブルも、フィールドワークの一部ではある。しかし、誰か知らないが、犬は捨てないでほしい。(p.142)

犬は捨てちゃ駄目だね。

チョウが見張り場所にするのは、林の中の小さな空間や山頂など、チョウのサイズからすれば開けた場所であることが多いことも理解できる。そういう場所でもないと、近くに現れた異性を見つけられないのだ。(中略)人間が見て賢いと感じるような、高い認知能力や学習能力を持つには、脳神経系を発達させなければならない。私見だが、それは動物に負担をかけているではないかと思う。それを維持するのがよいのか、脳も体も軽くした方が実践向きなのかは、人間の印象で判断できるようなことではない。(p.221)

人間も繁殖に成功しているとはいえ、同程度以上に広く世界に行き渡っている生物種はいくらもある。それを軽んじることはできない。