ヨモジジ(freaks ver.)

本と雑貨と音楽と、街歩きが好きなオッサン。1981年生まれの珈琲難民が好き放題に語る。レビューのためのブログ。

「共に、前へ、羽生結弦」著:日本テレビ「news every.」取材班

なかなか、本を読む気力が足りなかったので軽めの本を。

とはいえ、10年間にわたっての継続取材というのは
それぞれの深掘りがなかったとしても十分に意義あるものだし、
年月の中に陰影は現れるものだと思う。

フィギュアスケーターとしてとても優秀な選手だけれども
それ以上の意味を背負わされてしまったし、
また本人も積極的にそれを引き受けた。

これは甘美な共犯関係であるし、危うさを感じるところはないでもないけれど
個別の人間関係に彼はそれぞれの時点で立ち返っていたようで僕は少し安心した。
テレビだけで見ていると、スケートリンクだけで見ていると分からない彼の記録は
震災そのものを記憶するよすがとなるだろう。

仙台の内陸部で避難生活を送った羽生は、津波の被害は免れていた。後にテレビのニュースや仙台空港への道中で見た津波の被害は、想像を絶するものだった。その場所に行って、自分にできることはあるのだろうか。(p.91)

そこに足を踏み入れることを罪悪感としてここでは表現されている。同じ被災者であったとしても、被害の程度が違う。あるいは、自分はスケーターとしての活動を続けている。そこに引け目や恐れがあるのはごく自然なことだろう。

ただ、番組などの企画もあるだろうけれど、そこに入っていって恐れは使命感に変わっていったようだ。
前を向き続けることが、誰かの力に与えることになる。
それが彼の4回転半への挑戦なんだろう。